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被爆者 魂の叫び詩集に 元医師で作家 中区の天瀬さん刊行 「怒りの象徴」 大竹の碑に着想

 作家の天瀬裕康さん(92)=本名渡辺晋、広島市中区=が、詩集「叫魂(きょうこん)から永遠平和へ」を刊行した。内科医院を営んでいた大竹市内にある原爆慰霊碑「叫魂」にちなんだタイトル。自らの被爆体験を胸に「被爆者の魂の叫び、怒りを表現した碑をもっと多くの人に知ってもらいたい」と訴える。(長部剛)

 詩集はA5判141ページで50編を収録。原爆投下、幕末の長州戦争、伝統行事ひな流しなど、約40年間過ごした大竹の歴史や文化にまつわるさまざまな題材で思いをつづる。

 天瀬さんは、広島に原爆が落とされたあの日、母親の故郷の飯室(現広島市安佐北区)で、逃げてきた被爆者の救護に当たるなどして被爆した。戦後に医師を志し、病院勤務を経て1982年、大竹市立戸に医院を開業。慰霊碑「叫魂」はその近くの市総合市民会館の敷地内にある。

 仁王のような表情で天をにらむ父と、その足にすがる子のブロンズ像。天瀬さんは、詩集に寄せた「叫魂の碑」で〈被爆者の怒りと永遠の平和を象徴的に表すような父子像〉と表現。「救護活動で多くの人が亡くなるのを見た怒りと悲しみが重なる」と力を込める。

 第2次長州戦争(1866年)が題材の「幕末の悲劇」では、長州軍と幕府軍の激戦により現在の大竹市域で焼失家屋が1700軒を超えたことに触れ、〈戦争の被害者はいつも庶民〉としたためた。平和な生活への願いがこもる。

 作家活動を始めて半世紀ほどになる天瀬さん。「今後も戦争の理不尽さ、平和の尊さを作品を通じて伝えたい」と創作意欲はなお尽きない。

 詩集はコールサック社(東京)から千部を発行。1870円。同社☎03(5944)3258=平日午前10時~午後6時。

(2024年3月29日朝刊掲載)

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