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社説・コラム

朝凪(あさなぎ) 参加を拒んだ物理学者

 原爆開発を主導した物理学者の半生を追ったハリウッド映画「オッペンハイマー」がきょう、公開される。広島と長崎の被害には直接触れていないものの、開発に手を染めた末、使用に抗した科学者らの姿は描いている。全速力で進む巨大公共事業が止まらないさまも―。

 先日試写会に参加し、そもそも作品の範ちゅうにいない女性に思いを巡らせた。女性物理学者リーゼ・マイトナー。生涯で幾度もノーベル賞推薦を受けている。原爆開発への参加を求められたが、「真理の追究は人命を奪うためではない」との意志で最初から拒んだという。

 大量破壊兵器を生む人間の倫理とは。私ならマイトナーのように振る舞えたか。戦火と核に脅かされる現代こそ問われる。作品では描かれない者の信念を思い、反すうしている。(平和メディアセンター・小林可奈)

(2024年3月29日朝刊掲載)

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