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汚染源の特定 鍵は既存通達 PFAS 東広島の米軍川上弾薬庫周辺で検出

識者「対処迫れる」

日米地位協定の枠外も「地元の訴え原動力に」

 東広島市の米軍川上弾薬庫周辺の井戸水などから発がん性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)が相次いで高濃度で検出されている問題で、汚染源の特定が、在日米軍施設について米軍の排他的な管理権を定めた日米地位協定に阻まれている。市は米軍に敷地内の環境調査を求めるが、進展は見られない。専門家は「既存の取り決めの範囲内で米国に対応を迫れる余地はある」とし、地元から的確な訴えを続ける必要性を唱える。(教蓮孝匡)

 瀬野川源流域の同市八本松町宗吉地区。集落の端にある門の向こうに川上弾薬庫の敷地が広がる。一帯の井戸水からは国の暫定指針値(1リットル当たり50ナノグラム)を超えるPFASが相次いで検出された。

 「原因すら明らかでなく、生活の不便と健康不安が募るばかり」と、70代の男性はこぼす。自宅の井戸水は今年2月、指針値超えが判明。市が配給するペットボトルの水でしのいでいる。

 市が昨年から瀬野川水系などで実施した調査では水路や井戸など計99地点のうち25地点で指針値を超えた。同弾薬庫近くの井戸水からは300倍超を検出。弾薬庫の上流からはPFASが確認されなかったことなどから、市は「原因は弾薬庫に由来する可能性が高い」とみている。

 ただ、汚染源の特定は思うように進んでいない。日米地位協定が壁となっているからだ。高垣広徳市長は「地位協定もあり、直接アクセスできない」と言及。弾薬庫敷地内の水質・土壌調査を米軍に求めるよう、国などに要請を重ねることしかできないのが実情だ。

「環境補足協定」

 地位協定では米軍が許可しない限り、在日米軍施設に日本側が環境調査で立ち入ることはできない。近年、沖縄県や東京都などの米軍施設周辺でも高濃度のPFASが検出されているが、調査は実現していない。

 調査が実施された例はある。神奈川県の厚木と横須賀の両米軍基地では「施設内で汚染事故が発生した場合」などに限り立ち入りを認めている「環境補足協定」に基づき、地元自治体などが敷地内を調べた。米側がPFAS漏出を認めたため実現した。ただ、そもそも米側が事故発生を日本側に通告する義務はなく、調査も許可した場所に限られる。補足協定の実効性は米側の運用に左右されるといえる。

改定は非現実的

 川上弾薬庫について、米軍はPFASの漏出などを認めておらず、補足協定に基づく対応も望めない。東京工業大の川名晋史教授(国際政治学)は「協定の改定を求めるのは現実的でない。米国防総省が2013年に出した通達4715.08号に沿った具体的対処を米国に迫ることが得策だ」と主張する。

 通達は「米国外の国防省施設で起きた環境汚染」について、米側が原因物質の除去などをすると定める。汚染が米軍の活動に起因するかどうか明確でない場合も対象。受け入れ国に米側が協力することも明記しているという。川名教授は「この通達に基づく対処を日本政府が米軍に求めるべきだ。当を得た地元からの訴えはその大きな原動力となる」とする。

有機フッ素化合物(PFAS)

 水や油をはじく性質を持ち、フライパンのコーティングや航空機用の泡消化剤など幅広く使われてきた。極めて分解されにくく環境中に出ると長期間残留し、野生の生物や人の体内に蓄積する。1万種類以上あり、一部の種類については発がんリスクやコレステロール値の上昇、免疫機能への悪影響などが指摘されている。

(2024年4月2日朝刊掲載)

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