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核廃絶願い5度目航海へ 被爆者で七宝作家・東区の田中さん 7年ぶり 18ヵ国に寄港 「愚直に証言を」

 七宝作家で被爆者の田中稔子さん(85)=広島市東区=が13日、非政府組織(NGO)ピースボート(東京)の大型客船で、7年ぶりに証言の航海に出る。「今回が最後だと思う」。来年の被爆80年を前に、世界各地で被爆の実態を伝える。(山下美波)

 田中さんは6歳の時に爆心地から約2・3キロの牛田地区で被爆。がんを患った夫をみとり、2007年、寂しさを紛らわせようと世界を巡る船旅へ参加したのを機に、被爆体験を語り始めた。今回、ピースボートから誘われ、痛めている脚の手術を延期して5度目の乗船を決めた。

 105日間で、18カ国21カ所への寄港を予定。船内には、夫の祖母が被爆死した長男一家を捜す際に使った遺品の布製かばんなどを展示する。「世界で核兵器使用の危機が高まる中、被爆者として核兵器の恐ろしさを訴えたい」。乗船を予定するウクライナ出身の若者との対話を待ち望む。

 戦後に自殺したり、縁談を断られたりした被爆者の級友の存在も伝える考え。「復興に取り残された被爆者を多く見た。話すことが生き残った者の責任」と決意する。

 国内外で証言活動を続けてきた根底には被爆直後、やけどで泣きながらふと見た真っ青な空の記憶があるという。「昨日と同じ青空を見て明日への希望を感じた。小さいかもしれないが愚直に証言を続ける」。核兵器廃絶の思いが世界に広がるよう願う。

 船旅には、長崎で被爆した日本被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員(91)=埼玉県新座市=や小川忠義さん(80)=長崎市=も加わる。

(2024年4月7日朝刊掲載)

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