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社説・コラム

朝凪(あさなぎ) ブラジル被爆者の熱意

 学生時代の一時期、ブラジル・サンパウロ市で住民団体のスタッフを務めた。仲間に会うため再訪した18年前、現地で暮らす広島出身の被爆者、渡辺淳子さん(81)に初めて出会った。流ちょうなポルトガル語で原爆の恐ろしさを訴える彼女の熱弁に、私の仲間たちは目をそらさずに聞き入っていた。

 渡辺さんは2歳の時に「黒い雨」を浴び、その事実を知らずに移住した。証言活動へと突き動かしたのは、南米の被爆者139人の体験や健康不安がつづられた36年前の調査書類。「60歳の時に読み、原爆の悲惨さを初めて知った。この人たちの体験が私の原点」と振り返る。

 いま、調査書類は広島市南区の広島大医学部医学資料館で展示されている。散逸の危機にあった資料を守り、保存活用の道を探った彼女の熱意に心を打たれる。(社会担当・小畑浩)

(2024年4月6日朝刊掲載)

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