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イスラエルのガザ攻撃 広島市立大の田浪准教授に聞く 半年で数十年分の被害 深刻な「民族浄化」

 イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘開始から7日で半年となった。イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃による死者は約3万3千人に上る。「ガザは今後数十年に及ぶ被害をこの半年間で受けている」。深刻を極める人道危機について、広島市立大の田浪亜央江准教授(中東地域研究)に聞いた。(小林可奈)

  ―ガザの被害状況は。
 すさまじいとしか言いようがない。餓死者が増えており、破壊された病院ではやせ細ったスタッフが懸命に働いている。医療は崩壊し、治療を受けられず多くの市民が命を落としている。私の知人もその一人。胸がつぶれる思いだ。四肢切断などの負傷は約10万人。精神的ダメージを含めると健康被害はほぼ全人口に及ぶだろう。

  ―昨年のハマスによる奇襲に国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のスタッフが関与した疑惑があるとして、日本や米国などが資金拠出を一時停止する事態となりました。
 200万人以上の住民の命をさらに危険にさらす措置であり許されない。交戦中は中立的な調査が難しいのに、結果報告すら出ないうちに一方の主張をうのみにしたこと自体、問題だ。

  ―ヨルダン川西岸も危機にありますが、日本で注目されていません。
 イスラエル当局が司法手続きを経ず、パレスチナ人を期限なく刑務所に収容できる「行政拘禁」が急増している。性的暴行を含め、拷問や屈辱の加え方は残虐。人間を人間として扱っていない。イスラエルによる「民族浄化」が一気に進んでいる。

  ―わずかでも光明はないでしょうか。
 (1990年代に人種隔離政策を撤廃した)南アフリカの提訴を受け、国際司法裁判所(ICJ)はジェノサイド(民族大量虐殺)を防ぐ「あらゆる措置」をイスラエルに命じる仮処分(暫定措置)を出した。イスラエルの行為はジェノサイドだ、という認識が世界に広まる効果を感じている。

  ―今後をどう見ますか。
 9日ごろに終わるイスラム教のラマダン(断食月)後を懸念している。国際社会でどれだけ孤立しようとも、イスラエルはガザ最南部ラファに侵攻する姿勢を崩していない。国連が警告するように、侵攻が始まれば7月には約110万人が飢餓に陥る恐れがある。

 私は昨年10月から、仲間たちと原爆ドーム(中区)前などに集まり、攻撃の終結を訴えている。広島ではホロコースト(ユダヤ人大虐殺)ほど関心を持たれていないが、この事態に心からの危機感を持ってほしい。

(2024年4月8日朝刊掲載)

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