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三上智恵監督のドキュメンタリー「戦雲」 有事想定 変わる南西諸島

戦力配備加速に警鐘 「平和 つくる側に」

 台湾有事などを想定した日米両政府による戦力配備が加速する沖縄・南西諸島の現状を伝えるドキュメンタリー映画「戦雲(いくさふむ)」が、横川シネマ(広島市西区)で上映されている。沖縄本島、与那国島、宮古島、石垣島を歩き、戸惑う住民たちに寄り添った三上智恵監督は「沖縄だけでなく日本中が戦場になろうとしている」と警鐘を鳴らす。(渡辺敬子)

 攻撃力を持たない沿岸監視隊という条件で、与那国島に自衛隊駐屯地が完成したのは2016年。やがてミサイル部隊が増設され、戦車が公道を走り、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)も運び込まれた。映画は、希少な鳥類が生息する湿地を軍港化する計画や、有事における住民の島外避難の議論が進むさまも捉えていく。

 三上監督にとって6年ぶりの新作。1500時間もの撮影素材を見直し、132分の映画にまとめた。泣きながらカメラを回した場面も少なくないという。住民の分断や孤立が進み、容認と諦めの空気が島々を覆う中で「政治記者のストレートニュースでは伝わらない現実を全国に届けよう」と奮起した。

 題名は、石垣島に住む山里節子さんが「また戦雲が湧き出してくるよ。恐ろしくて眠れない」と歌う島唄の歌詞から。カジキ漁師、馬やヤギを飼う農家、カフェ経営者たちが胸の内を明かす。舟で競漕(きょうそう)するハーリーなど、伝統行事を支える若者たちの姿も映す。

 東京都出身の三上監督は、毎日放送を経て1995年に琉球朝日放送に転身。キャスターを務めながら番組制作を重ねた。「標的の村」で監督デビューし、14年からフリーで基地取材を続ける。大矢英代監督と共に手がけた前作「沖縄スパイ戦史」は沖縄戦の秘史を通じ、「軍隊は住民を守らない」構図を突き付けた。

 有事に備えた空港・港湾の整備、弾薬庫増設は各地で進む。防衛省は3月、呉市の日本製鉄瀬戸内製鉄所呉地区跡地約130ヘクタールを一括購入し、「多機能な複合防衛拠点」を整備したい意向を広島県と市に申し入れた。三上監督は「いったん土地を渡せば、どんな施設が造られても地元は文句が言えなくなる。情報は隠され、検証も難しい」とみる。

 近著「戦雲 要塞(ようさい)化する沖縄、島々の記録」(集英社新書)にはQRコードを付し、映画にない映像も視聴できるようにした。「平和は一生懸命につくらないと、すぐにしぼんでしまう。暗い戦雲を吹き飛ばす側に立ち、歴史の目撃者として共に歩いてほしい」

(2024年4月6日朝刊掲載)

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