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被爆2世ゲノム解析 説明へ 放影研 市民向け 広島で13日

 放射線影響研究所(放影研、広島市南区)は今月、準備を進めている被爆2世のゲノム(全遺伝情報)解析を巡り、広島、長崎両市で市民向けの説明会を開く。原爆放射線の遺伝的な影響の解明に向けた解析に着手するのを前に、研究結果が社会的な影響を与える可能性があることを含めて理解を広げたい考えだ。(太田香)

 説明会は、広島市では13日午後2時から原爆資料館(中区)で開催。20日には長崎市でも開く。放影研の研究員たちが広島、長崎の被爆者とその子ども約500家族を対象にしたゲノム解析の研究内容などを紹介。被爆者や2世とのパネル討論や質疑応答もある。

 親の被爆が子の健康に及ぼす影響について、放影研は前身の原爆傷害調査委員会(ABCC)時代から調査してきた。これまでの出産後の死亡率や病気の発症率といった統計的な調査では、いずれも遺伝的な影響は確認されていない。

 今回は「究極の個人情報」とされるゲノムを初めて分析することで、より踏み込んだ実態解明を目指す。一方、2世には健康不安だけでなく、結婚や就職での差別を経験した人もいる。研究結果の影響の大きさも考慮し、放影研は二つの被爆地で事前に研究計画を情報提供する。

 広島の説明会は定員200人(先着順)。8日までに応募フォームなどから申し込む。放影研☎082(261)3131。

[イチからわかる] 被爆2世のゲノム解析って何? 親の放射線量と変異を比較。影響の有無に一定の結論か

 日米両政府が共同運営する放射線影響研究所が被爆2世のゲノム解析に初めて乗り出します。その研究内容や影響をQ&A形式でまとめました。(太田香)

  Q どんな研究?
 A 広島、長崎の被爆者と2世の約500家族約1500人を対象に血液中のゲノムを解読します。親の受けた放射線量の多い集団と少ない集団で、遺伝子変異の状態などを比べます。親から受け継がれる遺伝子は通常でも多少の変化があります。これを「変異」と呼びます。今回はこの変異が被爆の影響で現れたのか否かをゲノム配列から調べます。

  Q 今までの調査と何が違うんだろう?
 A 放影研は被爆の遺伝的影響を長年調べてきました。ただ、親の被爆と2世の死亡や病気の発生率などの因果関係を集団の中で追跡調査する手法が中心。科学の進歩で可能になったゲノム解析では、2世への影響の有無に一定の結論を出せる可能性があります。

  Q いつ始まるの?
 A 市民への説明で理解が得られれば、速やかに本格的な調査を始めたい考えです。研究計画は7年を予定し、結果の分析にも時間を要します。被爆者が高齢化する中、残された時間は多くありません。成果は論文にまとめ、放射線被害から人を守るための研究に役立てます。

  Q なぜ説明会を?
 A 被爆地にとって非常に繊細な問題だからです。過去の調査で遺伝的影響は確認されていませんが、手法の限界から「全く影響がない」とも言い切れない状況です。今回の研究結果が援護施策の判断に影響を与える可能性があるほか、内容が正確に社会へ伝わらなければ、2世への偏見や差別に結び付く恐れもあります。

  Q 重要な研究だね。
 A 戦後、多くの被爆者はわが子が体調を崩すたびに「原爆の影響かも知れない」と不安を抱えてきました。放影研は「被爆者や2世と信頼関係をつくることが一番重要だ」としています。

(2024年4月6日朝刊掲載)

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