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社説・コラム

『想』 丸古玲子(まるこれいこ) 歴史コミュ

 「丸古さんが呉本(くれぼん)でやっていることは、歴史コミュニケーションですね」。その言葉に勇気づけられた。呉本とは私が古里・呉の歴史についてインタビュー形式で調べて書いた本のこと。

 歴史コミュニケーションとはなじみのない言葉だが、歴史を材料にして多くの人と交流していく活動を指すらしい。近年注目のファミリーヒストリーもその一つ。調べていくことで、家族や地域といっそう親交を深める。専門家である必要はなく、キラキラの好奇心が鍵となる。

 2018年に初めて出した「呉本」も、ことし発刊の「呉本G3~海軍工廠(こうしょう)と陸軍歩兵隊。呉を生きた祖父らの足跡を追う!」で第3弾となった。「G3」は「じーさん」。ある日実家で発見した祖父の遺品を出発点に探究したので名付けた。海軍工廠時代の家族手帳を持って「ここに書かれている意味は」と大和ミュージアムの学芸員に質問したり、陸軍歩兵隊のアルバムに貼られた壊れた鳥居の写真を「これはどこ」と岡山県まで取材に行ったり。さまざまな人により、ひもとかれていった祖父の生きざまに感嘆した。

 私の歴史コミュニケーションは取材段階から始まる。無我夢中で聞きまくる。そして発刊後は読者と語り合う。本を手に取ってもらうだけでも、すでにコミュニケーションしている。

 書物からうわさレベルまで歴史には一筋縄ではいかない主張や対立がある。今の危機は歴史から学んでいないせいだとも言われる。それなら進んで学び生かしたいが、小難しい書を一人読むなど誰がしたいだろう。そこで歴史コミュニケーションの出番なのだ。家族や仲間内の普段の会話で話題にしてもいい。私も「じいちゃんが戦艦大和の建造に関わったってほんま」と父母に尋ねたがらちが明かず、知っていそうな人に聞き、それで「呉本」にすることができた(実際に携わったことが「呉本G3」でほぼ確認できた)。

 思いがけぬ人と出会えることも歴史コミュニケーションの魅力。意外なところから気づかされる史実には常に驚かされる。(フリーライター=東京都在住)

(2024年4月5日朝刊セレクト掲載)

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