×

連載・特集

緑地帯 佐藤正治 音楽のミューズとともに①

 1975年からKAJIMOTOというクラシックの音楽事務所で音楽家のマネジメントの仕事をしている。入社1年目にピアニストのマルタ・アルゲリッチの担当を命じられて以来、彼女との仕事は今日まで48年間続いている。

 最初の出会いは76年5月、羽田空港に出迎えた時だ。「気性が激しいから注意せよ」という上司の助言に恐れを抱いていたのだが、出会った最初に彼女から「あなたは何をしたいの?」と尋ねられて狼狽(ろうばい)した。まず相手の話を聞く、というアルゲリッチの性格を初めて知った。

 この姿勢は一貫しており、彼女の聞く力と記憶する力は今でも抜群だ。70年に初来日し、注目の大型若手ピアニストと期待されたアルゲリッチは、来日のたびに卓越した演奏を聴かせてきた。今や「音楽の女神(ミューズ)」と評される存在だ。

 その女神と広島との関係が深まったのは、2015年8月5日に広島交響楽団と初共演した「平和の夕べ」コンサートである。6日後、サントリーホールで開かれた東京公演には、アルゲリッチからのお誘いで、天皇皇后両陛下(今の上皇ご夫妻)が臨席された。音楽の女神に負うところ大である。これを機に、アルゲリッチは広響平和音楽大使に就任。さらに、ひろしま音楽平和賞を受賞、ひろしま文化大使に任命された。(さとう・しょうじ KAJIMOTOプロジェクト・アドバイザー=東京)

(2024年4月9日朝刊掲載)

年別アーカイブ