×

連載・特集

緑地帯 佐藤正治 音楽のミューズとともに②

 「このオーケストラは優しさと活気に満ち溢(あふ)れて素晴らしいわ。序奏を聴いただけでそう感じたの」。指揮者秋山和慶と広島交響楽団との最初のリハーサル直後、アルゲリッチから出た言葉である。

 広響とアルゲリッチが2015年8月の「平和の夕べ」コンサートで共演したことは双方にとって幸福な出会いとなった。男女が自然に惹(ひ)かれ合うように、これからも付き合いたいと願い、広響・平和音楽大使の就任につながったのだ。

 実はアルゲリッチは広響より先に、アルゼンチンと欧州の音楽祭から招待を受けていた。彼女は広響との共演を優先し、ザルツブルク、ルツェルン、ベルリン、ロンドンの世界的な音楽祭を全てキャンセルしたのだ。

 「平和の夕べ」では、アルゲリッチの娘アニー・デュトワから、原民喜「鎮魂歌」とユダヤ系米国人レズニーコフの詩集「ホロコースト」の朗読が提案された。本番では演奏の合間に、アニーと小説家平野啓一郎が英語と日本語で朗読した。

 ポーランドのオケ「シンフォニア・ヴァルソヴィア」と広響との音楽交流に特別な共感を抱いていたアルゲリッチ。19年夏に首都ワルシャワで開催された音楽祭で、両オケの合同演奏にソリストとして出演し、リストのピアノ協奏曲第1番を弾いた。これが広響とアルゲリッチとの3度目の共演だった。コロナ禍による中断を経て、4度目の共演が今年5月12日に実現する。(KAJIMOTOプロジェクト・アドバイザー=東京)

(2024年4月10日朝刊掲載)

年別アーカイブ