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連載・特集

緑地帯 佐藤正治 音楽のミューズとともに③

 ウィーン出身の指揮者クリスティアン・アルミンク。4月に就任した、広島交響楽団の新しい音楽監督だ。10年前「平和の夕べ」コンサートで初登場して以来、共演のたびに楽団員との信頼関係を深めてきた。

 私は1994年ザルツブルク音楽祭で20代前半のアルミンクと知り合った。その際に感じたのは、彼がコミュニケーション能力に優れているということだ。その印象が実感に変わったのは、2001年千葉のユースオーケストラを指揮し、ベートーベンの「英雄」とヨハン・シュトラウスの作品を演奏した時。子どもの楽団員たちから「ウィーンの薫り」を感じさせる音楽を引き出したのだ。

 その2年後、新日本フィルハーモニー交響楽団の音楽監督に就任した際、ファンクラブが結成された。発起人は東欧旅行中に偶然アルミンクと出会った日本人旅行者たちで、列車の中で交わした会話に魅了されたことがきっかけになったという。

 音楽的なコミュニケーションが卓越していることは、アルゲリッチとの関係からもうかがえる。05年と10年の共演以来、彼女が最も信頼する指揮者となったのだ。今年5月、アルミンクが指揮する広響の特別定期演奏会にアルゲリッチが出演することも、その証しといえる。

 欧州在住のアルミンクは野球をほとんど知らない。任期中、野球を楽しむ時間を見つけ、広島東洋カープのファンになってくれるかな? (KAJIMOTOプロジェクト・アドバイザー=東京)

(2024年4月11日朝刊掲載)

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