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社説・コラム

『潮流』 投資リスクと核兵器

■編集委員 下久保聖司

 この春、新社会人になった長女から電話があった。「ちょっとずつ、投資を始めようと思うんだけど…」。残念ながら、当方は門外漢。アドバイスに窮して翌日、書店で1冊の本を買い求めた。

 元日本経済新聞記者の後藤達也さんが1月に出した「投資の教科書」(日経BP)。少額投資非課税制度(NISA)の新たなスタートと相まって、一時は売れ筋の上位にランクインした。

 株や投資信託のもうけへの課税がゼロになる枠が従来より広がった。本のページをめくる指が止まったのは「リスクってなんだろう」と題したコラムだ。日本語では「危険性」と訳すが、マネーゲームの世界では別の意味合いでも使われるという。

 例示は「リスクをとる」との表現。むやみに危ない世界に飛び込んでいくというよりは、「どう転ぶか読みづらいけど、その分、予想外に大きな利益にもなりうる」という前向きなニュアンスで用いるそうだ。

 いろんな金融商品がある。新聞やテレビで最近よく見かけるのは「ESG投資」というワードだ。環境保護、社会問題解決、企業統治を示すアルファベットの3文字で、企業がどれだけ熱心か。判断材料にする投資家が増えている。

 ESGの概念には「核なき世界」も含まれる。核兵器製造の関連企業への投融資を自制して「兵糧攻め」にしよう―。国内の大手生命保険や銀行がそんな動きを強めていることを歓迎したい。

 核戦争のリスクは、投資の世界のような「どう転ぶか読みづらい」ではいけない。それこそ危険性をゼロにせねば。長女とESG投資の話をしてみよう。被爆地広島で生まれ育ったから、きっと会話も弾むだろう。

(2024年4月11日朝刊掲載)

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