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連載・特集

在外被爆者 願いは海を超えて 第2部 米国編 <3> 高額医療費

民間保険、負担ずしり

「ひとケタ違う…」

 ロサンゼルス郊外カルバーシティに暮らす沖勉さん(75)は、大腸ポリープの手術を無事終え、退院したばかり。だが妻貞子さん(73)は、喜ぶ間もなく頭を抱えている。

 「ひとケタ違うのかと思って、何度も数え直しましたよ」

 計五万七千ドル―。日本円にして七百万円近い。勉さんが三週間入院したカリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)メディカルセンターからの明細書に、そう記してあった。請求書ではなく、「保険証両面をコピーしてファクスしてください」とも。

 被爆者健康手帳を持つ勉さんは、日本で入院すれば原則無料。分かってはいるが、今回は緊急事態だった。

 下血が続き、仕事で出かけたテネシー州で倒れ、応急手術を受けた。その後ロスまで戻り、再手術となった。

 「このほかに、テネシーの病院代と医者代と薬代が要るのよ。民間保険ですべてカバーし切れない」。貞子さんは深刻な顔をする。

 実際の自己負担額はまだ分からない。一万ドル前後になりそう、と夫妻は覚悟している。

 勉さんは米国に生まれ、古市(広島市安佐南区)で育った。帰ってこない弟を捜して父親と入市被爆した。五日目に変わり果てた弟を見つけた。「息子を自分で焼く父がかわいそうで」。涙をこらえられない。

 貞子さんは五日市(佐伯区)の石綿工場で、飛行機に取り付ける酸素吸入器を作っていた。翌日、古市の実家に帰る際に、やはり入市被爆した。二人は一九五四年渡米した。

 国民皆保険制度のない米国では、ほとんどの人が高額な掛け金を払い、民間の健康保険に入る。営利企業だから、被爆者だと分かると、加入を断られたり、掛け金が高くなったりする。

 沖さん夫妻は若いころ保険に入った。わざわざ「被爆者」とは言わなかった。それでも今、勉さんは年に二千ドルを掛ける。貞子さんは最近、民間保険はやめた。二人分はとても払えないし、六十五歳からは、高齢者対象の公的医療保険「メディケア」に入れるからだ。

2~4割自己負担

 年金などの収入から毎月一人約六十ドルを引かれる。自己負担は基本的に医療費の二~四割相当。

 しかし政府は支出抑制のため、さまざまな制限を加える。医師の医療行為を厳しく審査する。「例えば担当医が初診料百ドルと請求しても、政府が七十ドルだと言えば、医師が受け取るのは八割相当なら五十六ドル。百ドルとの差額を患者に求めたり、診療拒否もある」と、ある日本人ドクターは説明する。基本的に予防的な通院も認められない。「ひどくなるまでほっておけ」となる。

 貞子さんも最近、骨粗しょう症、胃、肺の疾患など通院が続く。勉さんは居間のリクライニングチェアで訴える。「日本政府が在外被爆者への支援を考えるのなら、どうかここで安心して医者にかかれるようにしてほしい」

(2002年7月16日朝刊掲載)

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