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首相 米議会演説 被爆者 落胆の声 「骨のある主張なかった」

 訪米中の岸田文雄首相による米連邦議会での演説に12日、被爆者の落胆が広がった。「核兵器のない世界」を巡る言及に、物足りないとの指摘が相次ぐ。被爆地広島選出の首相として、核兵器廃絶を主導するよう求める声が上がった。

 広島で被爆した日本被団協代表理事の家島昌志さん(81)は、被団協役員4人で核兵器禁止条約への参加を求める署名を外務省に提出した後、報道陣の取材に応じた。首相演説で「核なき世界」への「骨のある主張はなかった」とし、「核廃絶をリードするよう真剣に考えてほしい」と話した。

 同行した被団協事務局次長の児玉三智子さん(86)は、首相が米国の「核の傘」を含む拡大抑止の重要性を強調したと指摘。「情けない。被爆者は苦しみながら生きてきた。核の傘から出てほしい」と訴えた。

 「本気度が見えない」と憤ったのは、広島県被団協理事長の箕牧(みまき)智之さん(82)。「バイデン大統領に廃絶を迫る好機だったのに生かし切れなかった」と残念がった。

 林芳正官房長官はこの日の記者会見で「東アジアにおける核拡散の差し迫った危険に触れ、核兵器のない世界の実現という目標への総理の強い思いに言及した」と演説を振り返った。首相が実現への具体策に触れなかった理由は答えなかった。(宮野史康、樋口浩二)

記者のつぶやき

「核なき世界」訴えたけれど

 流ちょうな英語、大げさ過ぎない身ぶり手ぶり。11日(日本時間12日)、米連邦議会上下両院合同会議で演説する岸田文雄首相を記者席から見た。その言葉は自信にあふれ、聴衆の反応も上々と感じた。

 ただ一度だけ、違和感を覚える光景があった。被爆地広島選出の首相が「自身の政治キャリアを『核兵器のない世界』の実現という目標にささげてきた」と述べた際だ。共和党側を中心に半数ほどの議員が、拍手はしたけれど起立しなかった。

 「(ロシアの侵攻を受けている)今日のウクライナは、明日の東アジアかもしれない」「堅固な(日米)同盟と不朽の友好を誓う」といった主張には、ほぼ全員のスタンディングオベーションが起きた。そこには、国際社会の緊張を核超大国の米国がどう見ているか、表れている気がした。

 演説で「私は理想主義者であると同時に、現実主義者だ」と語った首相。「民主主義の本丸」と表現した米議会で自身の理想を語った意義はあるが、実現の道のりを描く言葉も紡いでほしかった。(ワシントン秋吉正哉)

(2024年4月14日朝刊掲載)

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