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社説・コラム

朝凪(あさなぎ) 祖母とケーキの思い出

 桜が散り始めた今週、広島市内に住む祖母が穏やかに息を引き取った。祖母は爆心地から約4・1キロの草津本町(西区)で被爆。近くの山に逃げ、一夜を明かした。まだ元気だった9年前、その山へ一緒に登り、当時の体験を聞いた。市中心部で火柱が何度も上がり、辺りの暗闇が照らされて隣の人の顔が見えたという。9歳だった。

 暗い部屋でケーキのろうそくを見ると、思い出して胸が苦しくなるんよ―。そう打ち明けてくれた。戦後も貧しく、穴だらけのトタン屋根の下で暮らしたとも。いつも笑顔の祖母がたどってきた苦難を想像した。

 最近は体力が落ち、軟らかいものしか口にできなかった。亡くなった翌日は私の息子の小学校の入学式。一緒にお祝いのケーキを食べるはずだった。もう一度、ありがとうと伝えたかった。(社会担当・久保友美恵)

(2024年4月13日朝刊掲載)

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