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連載・特集

在外被爆者 願いは海を超えて 第4部 提言編 <2> 広島赤十字・原爆病院副院長 大田典也さん(64)

医師団健診、継続を 高齢化、渡日は難しく

  ―北米や南米の被爆者を健康診断する意義を聞かせてください。
 二年に一度の健診に行くと、被爆者からはまず、現在の広島や長崎がどんな状況かについて質問を浴びる。現地の医師法との関係で私たちが治療することはできないが、被爆地からの医師団の訪問は、故郷とつなぐ心のよりどころと思う。

受診率は年々低下

 ―しかし、高齢の被爆者は健診会場に行くのも難しくなっています。
 二〇〇〇年の南米健診で、日本の介護保険制度にならい、ブラジル、パラグアイ、アルゼンチンで診察した八十人の要介護度を分類してみた。六十八人の「自立」を除き、交通機関を利用してかろうじて移動できるのが一人、自力では交通機関での移動ができないのが六人、介助なしでは外出できないのが一人、不詳が四人だった。結局、七人は健診参加はこれで最後だろうと予想した。

 ―確かに、南米の受診者は減少していますね。
 回を経るごとに受診率は低下し、九八年の九十三人が、二〇〇〇年は八十人。肉体の衰えで健診会場まで来られなかったり、亡くなられたため。北米も同じ傾向にある。今後は、被爆者の来場手段も把握すべきだ。

 ―健診よりも現地で治療を受けるため基金創設を望む声があります。
 知っている。今年は南米に行く年だが、最も被爆者が多いブラジルでそうした声が多く、健診実施が難しいかもしれない。しかし、一度やめると復活は難しい。続けることで被爆者の体調変化などが分かる。医師団派遣は継続すべきだ。

 ―日本政府は渡日治療を支援する方針です。
 無理だと思う。被爆者は確実に年を取り、これからは渡日は難しい。これまでも重病の人には来てもらえなかった。特に南米との往復がどんなに大変か、実際に体験しないと分からないだろう。

医療水準引き上げ

 ―国によって医療水準や保険制度に差があります。平等な支援は可能でしょうか。
 確かに隣国同士でも国情は異なり、しかも年々変わる。平等に、というのは難しい。医療水準で言えば、十分なのは北米とブラジルのサンパウロだけではないか。

 例えば、パラグアイの日系移住地に診療所はあるが、そこの医師の専門外の治療は、国境を越えてアルゼンチンに渡らなくてはいけない。でもみんなアルゼンチンの保険には入っていない。過去、診断が出ても手術はできないという人が、被爆者に限らずたくさん亡くなったと聞いている。しかも、アルゼンチン側も経済状態が悪い。医療支援が必要だろう。

 ―渡日治療も難しいとすれば、どうすればいいのでしょうか。
 健診を継続するには現地の協力組織の理解が欠かせない。医療水準を引き上げるなど、相手側の土台を堅実なものにする必要もあろう。そうした幅広い援助継続の努力をすべきと思う。

 <おおた・みちや>被爆地から南米と北米へ派遣している医師団に計3回加わった。南米が98年と2000年、北米が01年で、いずれも団長を務めた。広島大医学部卒。81年から広島赤十字・原爆病院神経内科部長、94年から現職。

(2002年8月9日朝刊掲載)

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