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在外被爆者 願いは海を超えて 第4部 提言編 <4> 在ブラジル被爆者裁判の担当弁護士 足立修一さん(44)

現行法で支援可能 占領下の沖縄に前例

  ―被爆者援護法の適用を求め、在外被爆者の提訴が相次いでいます。
 被爆者はどこにいても被爆者。ほとんどが日本国籍のブラジルの被爆者にとって、日本同様の支援が受けられないのは理屈が通らないと思うのは当然だ。多くの人が移民で渡った経過もあり、日本に見捨てられてきたとの思いが強い。

  ―被爆者援護法に矛盾がありますか。

根に戦争責任問題

 援護法には、被爆者が海外にいるか国内にいるかで適用を分ける明文の根拠はない。なのに、厚生労働省が海外に適用しないのは、被爆者援護政策は国家補償的な要素を持ち、そこを突き詰めていけば、戦争責任の問題に波及する。それを防ぎたいからだろう。

  ―日本国に税金を払わない在外被爆者が援助が受けられないのは当然、と言う人もいます。
 大阪地裁の在韓被爆者訴訟で、国などは「被爆者援護法は(国家の構成員の税負担で賄われ、受給者の拠出を要しない)非拠出制の社会保障であり、海外居住者には適用されない」と主張した。しかし、被爆者側が勝訴した昨年六月の判決は「どの範囲を(援護法の)適用対象にするかは個別的政策決定の問題」としている。ブラジルの被爆者は日本国籍の人がほとんどで、海外にいようが日本社会の構成員。社会保障の対象者と考えるべきだ。

 判決はさらに、「援護法は国外居住者を排除するとの解釈を導くことは困難」としている。

根拠ない運用通達

  ―一九七四年の厚生省局長通達は、在外被爆者への適用を除外しています。
 通達は、根拠にならない。かつて米占領下の沖縄の被爆者に対し、日本政府は琉球政府を通じて援護をした。国はそれを、当時の原爆医療法や特別措置法の適用ではないと言うが、実際はほぼ同様の扱いだった。やる気になればできることを示している。労災年金や軍人恩給などの給付金を海外に送金している例もあり、法律で明文化しなくてもできる。

  ―政府は一連の敗訴に控訴しています。
 援護法の枠内でできる援護すら日本政府はやっていない。健康管理手当をまず支給し、その次に医療費給付について考えましょう、という動きが出て来るかと期待していたが、現在の日本政府の支援策はまったく逆の方向に進んでいる。

委託で手帳発行も

  ―現地で被爆者が支払った医療費分の送金も可能ですか。
 それぞれの国の医療制度が違い、難しい面もあるが、医療費の領収書を取っておいて、請求する方法もある。完全な援護法の適用とならなくても同様の支援策はできる。

  ―被爆者健康手帳を現地で発行できますか。
 外交にかかわる問題だが、例えば被爆者と認定するかどうかなど、相手国に委託してやってもらう方法もあるだろう。

 足立修一<あだち・しゅういち> 今年、在ブラジル被爆者8人が被爆者健康手当の支給などを求めて広島地裁に相次ぎ提訴した。その訴訟を担当する。91年、広島弁護士会に弁護士登録。2000年、大阪地裁での在韓被爆者訴訟にもかかわり、一審で勝訴した。

(2002年8月13日朝刊掲載)

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