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連載・特集

緑地帯 佐藤正治 音楽のミューズとともに⑥

 オーケストラ事務局、レコード会社、放送局、出版社、音楽事務所などクラシックの音楽業界には、アマチュア演奏家としても活動している人がいる。私もその一人だ。長年、そうした仲間が仕事の合間に集まって、音楽を奏でる「楽しいオーケストラ」の実現を夢想していた。

 それが実現したのは1990年代後半、ちょうど首都圏でホール建設が盛んだった頃だ。いずれプロのコンサートに使用してもらいたいホール側と、自分たちで音を出して下見したいというわれわれの意向が一致。いくつか新しいホールでオーケストラの音を出す機会を得た。

 とある新ホールの正式なこけら落とし公演に先立って、「楽しいオーケストラ」の試奏が実現した。曲目はシューベルトの未完成交響曲。3時間ほどリハーサルを行い、その後全曲を通して演奏する。関係者を除いて無観客の催しである。

 終演後、ホール内で乾杯と談笑の時間を設けた。音楽的な質を求める集まりではない。組織同士ではなく、個人同士が楽器を通して親睦を深める。相手を組織名ではなく、「クラリネットの〇〇さん」と呼ぶのだ。

 この体験を通じて「一緒に奏でると人は仲良くなれる(play together and make harmony)」と確信した。これはさまざまな音楽の世界で活用される大事なコンセプトだ。世界の緊張緩和や国際交流にも役立つに違いない。(KAJIMOTOプロジェクト・アドバイザー=東京)

(2024年4月17日朝刊掲載)

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