×

ニュース

国の在外被爆者健診事業 医師団派遣めど立たず 「治療伴わぬ」現地反発

 国が七月から始めた在外被爆者支援策のうち、南米や北米、韓国へ日本から医師団を派遣する健康診断事業が、実施のめどが立っていない。支援策全体に反発する現地の被爆者団体から協力が得られないためで、事業主体である広島県や広島市は、関係機関との調整を急いでいる。

 健診は、北米へは一九七七年から広島県医師会と放射線影響研究所(広島市南区)が県と市の補助金を得て実施。南米へは県が県医師会に委託する形で八五年から始めた。それぞれ隔年で実施し、この枠組みが続いていれば今年は秋に南米に向かうはずだった。

 しかし、国が、本年度から始めた在外被爆者支援策のメニューに健診団の派遣を加えたため、事業の枠組みが一変。広島と長崎の両県市は、北米と南米に韓国も加え、本年度中に健診団を送り込むことになった。

 ところが南米では、在ブラジル原爆被爆者協会が「治療を伴わない健診ではなく、ブラジルで医療を受けられるよう基金にしてほしい」と要望。健診会場の確保や被爆者への周知など、医師団派遣に必要な現地の協力を得る見通しが立っていない。このため、最も被爆者が多いブラジルを外し、アルゼンチンやパラグアイなどを回る案も一部にある。

 北米も、米国広島・長崎原爆被爆者協会(据石和会長)は健診継続を望むが、もう一方の米国原爆被爆者協会(友沢光男会長)はブラジルと同様の理由で反発している。

 さらに、韓国原爆被害者協会も、日本政府の支援策への賛否を留保。韓国での健診事業は初めてでもあり、現地との調整を担う長崎県は「まだ具体的な詰めをする段階に至っていない」と話す。

 広島県被爆者・毒ガス障害者対策室の片山克則室長は「健診は現地の協力体制があってこそ。粘り強く協力を求めていきたい」と話している。

(2002年9月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ