×

社説・コラム

『潮流』 「共にいる」相手は

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 30年前にヒットしたマイケル・ジャクソンのバラード曲「ユー・アー・ノット・アローン」。歌詞を直訳すると「あなたは独りではない。私が共にいる」。愛する人に去られ、孤独に打ちひしがれる者への支えの言葉だ。

 12日、岸田文雄首相の英語による米連邦議会演説で「あなたは独りではない。私たちが共にいる」と聞き、マイケルの顔が頭の中をぐるぐると巡った。

 政府発表の和訳は「米国は独りではありません。日本は米国と共にあります」。首相は続けて、日本が強固な米同盟国へと自らを変革してきたことや、防衛予算の増額と「反撃能力」保持などの方針を強調。さらなる日米一体化への意志を力強く説いた。

 入念に練られた文章。米国なまりの発音。議場で好感を持たれたのもうなずける。だが日本の最高法規としての憲法9条の存在感も、核超大国への注文もなかった。「広島出身」と語りながらの演説だけに、被爆地も賛同したと思われては困る。

 同じ頃、核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)の森滝春子顧問が、連帯を呼びかける声明文を米国の知人に送った。相手は「自国の原爆投下は過ちだった」との思いで先月、広島を訪れた反核活動家。3日前、中西部にある核弾頭部品工場の前で抗議行動を展開した。

 廃絶への障害となっている現場で直接声を上げる市民は、米国でも少数派だろう。広島からのメッセージに感涙する参加者もいたという。

 「あなたは独りではない。私たちが共にいる」。被爆地から共感し支えるべきは、過去の原爆使用の責任を認めず、強大な核権力を保持する当事者ではないはずである。

(2024年4月18日朝刊掲載)

年別アーカイブ