×

社説・コラム

社説 海自哨戒ヘリ墜落 訓練の安全策 再確認せよ

 海上自衛隊の哨戒ヘリコプター2機が20日深夜、伊豆諸島の鳥島東方海域に墜落した。潜水艦探知の夜間訓練中に起きた事故で墜落は2機がほぼ同時と見られている。

 搭乗していた8人全員が死亡、行方不明になった事態は極めて重大だ。不明者の救助をとにかく急いでほしい。

 夜間とはいえ、荒れた天候でもなかったようだ。飛行中の機体に異常を示すデータも確認されていない。木原稔防衛相は2機が衝突した可能性が高いとしている。フライトレコーダー(飛行記録装置)も回収している。捜索とともに、徹底的に原因を究明しなければならない。

 海に囲まれた日本は中国の海洋進出などを念頭に潜水艦に対する防御を重ねてきた。敵に見立てた海自の潜水艦を哨戒ヘリが2、3機で探知し、つり下げ式の水中音波探知機(ソナー)を海中に落として追い込む対潜哨戒は「海自のお家芸」とされる。

 訓練中の事故だけに海自関係者のショックは計り知れない。事故当時は海自第4護衛隊群(呉市)などの練度を確認する「訓練査閲」中だったという。

 哨戒ヘリの事故は今回以外にも近年、2件起きている。2017年には青森県の竜飛崎沖で夜間訓練中に1機が墜落し、2人が死亡した。計器を修正している際の人為ミスとされている。21年には鹿児島県の奄美大島沖で2機が空中接触した。幸いにも死者は出なかったが、見張りや連携の不十分が原因とされる。

 海自トップである酒井良海上幕僚長は、今回の事故後の会見で「過去の事故の教訓から導かれる安全対策を講じていれば事故は起きない」と説明したようだ。しかし、墜落した2機が接近しているデータがあることも認めている。安全対策が徹底できていないとすればその原因は何なのか。海自は組織を挙げて問い直す責任があるはずだ。

 自衛官の人数は約22万8千人。定員より約1万9千人も少ない定員割れが続く。ただでさえ人員が足りないのに、中国や北朝鮮への対応に追われ、安全確保に必要な訓練が十分積めていないのではないか。機体同士が接近すれば警報が作動するシステムも搭載されていたはずなのに、実際には作動していなかったという指摘もある。

 事故はヒューマンエラーという見方が現時点では強いものの、なぜそうした状況が起こりえたのか。十分な分析と検討が必要だ。そうでなければ残された隊員たちも安心して訓練できるはずもない。

 沖縄県宮古島沖に陸自ヘリが墜落し、師団長以下10人全員が死亡した昨年4月の事故も記憶に新しい。事故を招いたとされるエンジン2基の出力低下の原因を明確に特定もしないまま「この先一人の犠牲者も出さない」と飛行を全面再開させる方針を発表してまだ1カ月である。

 過去の失敗を教訓にできているのか、極めて疑わしいと言わざるを得ない。今回の事故を契機に、海自は隊員の生命を最優先する、安全対策を再確認してもらいたい。

(2024年4月23日朝刊掲載)

年別アーカイブ