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連載・特集

海自呉地方隊創設70年 第2部 防衛拠点整備案 <1> 防衛力強化

政策変化 各分野に予算

呉基地との関連性は不明

 7月に創設70年となる海上自衛隊呉地方隊を取り巻く環境が、大きく変わる可能性が出ている。防衛省が3月、呉市の呉基地に近い日本製鉄(日鉄)瀬戸内製鉄所呉地区跡地で複合防衛拠点を整備する案を持っていることを明らかにしたからだ。同省は跡地について早期の一括購入を目指している。一方、来年3月には基地内に新部隊の司令部が置かれる。拠点整備案と新部隊は呉地方隊にどう関連し、呉の街にどう影響するのか。地域の動きも含め現状を追った。(小林旦地)

 灰色の船体が並ぶ呉基地の係船堀地区でひときわ目を引くのが海自最大の護衛艦「かが」だ。甲板に戦闘機が発着できるよう改修中で第1段階の作業が3月末に完了。海自は事実上空母化する同艦について「多機能になり運用の柔軟性が増した」とする。

 4月上旬に公開されたかがの甲板から南側を向くと並び立つ焦げ茶の設備群が目に入る。昨年9月末に事実上閉鎖した日鉄呉地区(約130ヘクタール)の高炉などだ。日鉄が2020年に呉地区の閉鎖方針を発表して以降、跡地活用の行方が焦点となってきた。防衛省は3月、複合防衛拠点を整備する意向があることを県と市に伝達した。

安保3文書改定

 初めて明らかになった具体的な活用策に地元では波紋が広がっている。「あの広い土地を活用できるのは自衛隊しかない」との見方も。呉基地内にある呉地方総監部の幹部の一人は「防衛省の背広組が進めている話。中身はわれわれには分からない」と漏らす。

 大きな反響をもたらした整備案。浮上した背景には、防衛政策の変化とそれに伴う防衛予算の増大がある。  政府は22年12月、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有を盛り込んだ国家安全保障戦略など安保関連3文書を決定。防衛力の抜本的強化に向け、23~27年度の防衛費を総額43兆円に増額するとした。年平均8兆6千億円で22年度の約1・6倍に上る。

 3文書ではミサイル防衛能力の強化や部隊の機動展開能力の向上、主要基地の再配備など7分野を重視すると明記。実現に向け、ミサイルの増強や施設の強靱化(きょうじんか)などあらゆる分野に予算を振り分ける。うち施設整備関連では5年間で4兆円を見積もり、呉での防衛拠点整備にも充てるとみられる。

「施設 金字塔に」

 同省は同跡地について、南西諸島方面へのアクセスの良さなどから「重要な場所」と強調。岸田文雄首相は拠点整備案に関して「装備品の維持整備・製造、訓練、補給を一体的に機能させ、部隊運用の持続性を高める必要がある」と説明する。

 現時点で拠点整備案と海自呉基地との関連ははっきりしていない。ただ「呉基地は艦船が多く手狭になっている。同跡地の港湾機能が活用される可能性はある」と指摘する専門家もいる。同省幹部は「拠点整備が実現すれば施設面で金字塔のような存在になる」とする。日本の安保政策の中で、呉が重要なエリアとして位置付けられていることがうかがえる。

(2024年4月23日朝刊掲載)

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