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社説・コラム

『この人』 一般社団法人「核兵器をなくす日本キャンペーン」専従職員になった 浅野英男(あさのひでお)さん

 勤務先は、遅くとも2030年までの日本政府による核兵器禁止条約への加盟を目標にする今月発足の新法人。たった一人の専従者で、シンポジウムの準備や国会議員への働きかけの調整などを担う。「政治や社会を変えるムーブメントを起こしたい」と意気込む。

 新法人のモデルは、ノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))だ。その日本版とも言える活動に打ち込むきっかけは、東京都内の大学2年の夏にある。友人を誘って、原爆資料館(広島市中区)を初めて訪問した。

 皮膚を垂らしてさまよう被爆者の人形や壊滅した街の写真に接した。湧き上がる感情を手元の手帳に書き込んだ。「地獄」「無差別さ、非人道性」「許されていいものではない」

 大学院で世界のヒバクシャを研究した後に、フルブライト奨学金で渡米。核超大国の政策立案の過程を学ぼうと、米政府や国連に人材を輩出するミドルベリー国際大学院モントレー校に進んだ。核抑止の必要性を説く同級生との討議で思い返したのは、原爆資料館でのメモ。「いつでも核兵器がもたらす悲惨な現実から議論を始めないといけない」との信念を持つ。

 新法人には、すでに国内20余りの被爆者組織や市民団体が加わった。政府の方針を変えるという目標を達成し「核廃絶の運動に名を残したい」と力を込める。

 時間を見つけては本を読む自称「インドア派」だが、好物の激辛料理のための外出はいとわない。茨城県稲敷市出身。東京都練馬区在住。(宮野史康)

(2024年4月25日朝刊掲載)

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