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連載・特集

海自呉地方隊創設70年 第2部 防衛拠点整備案 <3> 新部隊

陸海垣根越え機動輸送

日鉄跡地の活用 可能性も

 青い制服の海上自衛官約20人に交ざって、緑の迷彩服の3人が赤と白の手旗を振る。江田島市の海自第1術科学校のグラウンドで今月中旬にあった海士航海課程の授業(教務)。艦艇同士のコミュニケーション手段となる手旗信号の練習に、陸上自衛官が励んでいた。

陸自を船乗りに

 同校では2020年から陸上自衛官を「船乗り」にするための教育が始まっている。1年程度の海自輸送艦勤務を経た陸曹以上の自衛官が、艦艇を操る「運用」とナビゲーター役の「航海」、無線などを扱う「通信」を学ぶ。

 同課程の場合、1~2年の輸送艦などでの勤務を経験した若手海上自衛官とともに数カ月間、海や艦艇の運用に関する技術や知識を勉強する。2月から同校で学ぶ岡田一良1等陸曹(50)は陸自勤務30年を超えるベテランだ。「新しいことに挑戦してみたい」と希望した。

 自衛隊は現在、陸・海・空の垣根を越えた統合運用体制の整備を進めている。平常時から「有事」までのあらゆる段階で横断的な作戦を展開するためといい、25年3月末までに常設の統合司令部を新設する方針を決めている。22年に決定した防衛力整備計画では、統合運用体制の強化に向け、陸自の定数の一部を共同部隊などに振り替えるとしている。

呉基地に準備室

 25年3月末までに海自呉基地(呉市)に司令部を置く新設の共同部隊「海上輸送群」もその一環だ。南西地域へ部隊を速く移動させる機動展開能力の向上が目的で、人員に余力のない海自に代わって、陸自が輸送船を運用する。人員100人、中型と小型それぞれ1隻の計2隻体制を計画。すでに同基地内に準備室を設けている。

 将来的には、艦船を10隻に増やし人員も陸上自衛官を中心に増強するとみられる。ある自衛隊関係者によると、全国に拠点を置く可能性もあるといい、その場合、呉基地の司令部が束ねることになる。

 同基地に近い日本製鉄瀬戸内製鉄所呉地区の跡地では、防衛省が多機能な複合防衛拠点を整備する計画を持つ。整備案の具体的な内容は明らかになっていないが「海上輸送群も有力な候補ではないか」(ある防衛省幹部)との見方もある。

 第1術科学校での教育を修了した陸上自衛官は、新部隊の発足に備え、既に海自の艦艇で勤務しているという。呉基地に停泊している艦艇でも緑の迷彩服の自衛官を見かけることがある。「海自の街」にも変化が表れている。(小林旦地)

自衛隊の隊員数
 防衛省によると、自衛隊の隊員数は2022年度末時点で、陸自が約13万7千人(定員約15万人)、海自が約4万3千人(同約4万5千人)、空自が約4万4千人(同約4万7千人)などとなっている。陸自が全体の6割を占める。

(2024年4月25日朝刊掲載)

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