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連載・特集

海自呉地方隊創設70年 第2部 防衛拠点整備案 <4> 呉市のスタンス

強い期待感 県と温度差

経済活性化と「誇り」背景

 「良かったね」。桜が満開となった4月上旬の週末、呉市の新原芳明市長は、市中心部の川沿いで花見を楽しむ市民から何度かこんな言葉をかけられた。昨年9月に事実上閉鎖した日本製鉄(日鉄)瀬戸内製鉄所呉地区の跡地を、防衛省が一括購入し利用する意向を示した点についてだ。

 協力会社を含め従業員約3300人を有する製鉄所の閉鎖は、人口減少に直面する市に暗い影を落とした。跡地はマツダスタジアム36個分の約130ヘクタールと広大で塩漬けになると将来の経済に影響を及ぼしかねない。それだけに3月に明らかになった防衛省による複合防衛拠点整備案への期待を語る市民は少なくない。

共に生きてきた

 新原市長は、期待の背景にあるのは、まちの活性化ばかりではないとみる。海上自衛隊呉基地(呉市)を母港とする艦船が機雷除去などで海の安全を確保したり、災害救助に向かったりしていることを引き合いにこう説明する。「海自と一緒に生きてきたという誇りが多くの市民にある。私にもある」。防衛省と市、県、日鉄による初の4者協議で阿原亨副市長も市民が希望と誇りを持てる活用策を求めた。

 呉市長は「8」、知事は「ゼロ」―。市と県が公表した公務のうち25日までの1カ月間に海自や防衛省が絡んだ日数だ。数字に表れる海自との密接な関係は整備案の受け止めについて県との「温度差」を生んでいる。

 新原市長は整備案を「重要な選択肢」とし、経済効果を求めるあまり防衛目的が果たせないならば「市にもマイナス」と踏み込んだ考えを示す。対して湯崎英彦知事は「選択肢の一つ」とし、産業用地としての可能性を横一線で探る姿勢を崩していない。

 日鉄に対するスタンスの違いも鮮明だ。防衛省を除く3者での協議を棚上げしている日鉄に対して、湯崎知事が苦言を呈した一方、新原市長は「地元に十分配慮してくださると期待している」と信頼をにじませる。

 県の副知事も経験した元呉市長の小笠原臣也さん(89)は「呉の海自が国民の生命財産を守る一翼を担っていることは市民の誇り。また、日鉄のおかげで市内の企業が育ち、商店街も潤ってきた」と市民の肌感覚を代弁。基地や製鉄所の立地都市と、県に温度差が生じる理由を説明する。

説明会予定せず

 整備案には市議会でも「停滞感がある中で明るいニュース」と好意的な受け止めが目立ち、整備に絡み地元企業の参加を求める要望も上がった。一方で「攻撃の標的にされる」と反対する市議もいる。

 新原市長は「10年、20年先に振り返って市民が誇りに思える判断をすることは重要だ」と繰り返す。市は、市議会の意見を防衛省と共有する方針を示す半面、市民説明会などを開く予定は当面はないとしている。(衣川圭、小林旦地)

(2024年4月26日朝刊掲載)

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