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連載・特集

海自呉地方隊創設70年 第2部 防衛拠点整備案 <5> 市民の思い

身近な存在 支持目立つ

「軍事化反対」 集会・デモも

 海上自衛隊の自衛艦旗と呉市旗が並んで掲げられた会場は温かい雰囲気に包まれていた。今月中旬、同市内のホテルであった壮行会。地元の会社経営者や市幹部たち約200人が、海自幹部候補生学校(江田島市)を卒業し、練習航海に臨んでいる若手幹部約200人を手拍子で迎えた。

財界歓迎ムード

 壮行会は、呉商工会議所や市が企画した。お礼のあいさつに立った練習艦隊の西山高広司令官は「本日はわれわれの給料日。この後、集まった若手をまちに放ちますので呉市の経済に貢献してくれるんじゃないかなと思う」と笑いを誘った。

 呉の経済界にとって海自は身近な存在だ。呉基地に隣接する日本製鉄瀬戸内製鉄所呉地区の跡地に複合防衛拠点を設ける防衛省の案にも理解を示す声が目立つ。

 運送会社の専務で、壮行会に参加した呉青年会議所(JC)の三戸規弘理事長(38)は「海自はこれまでも生活の身近にあったし、拠点整備案に違和感はない。市がよくなることにつながるのではないか」と注視する。船舶関連会社の社長は「防衛省は取引先の一つ。艦船がたくさん来るなら仕事は広がる」と期待を寄せる。

 70年にわたり海自の拠点となってきた呉の街では、防衛省の提案は「まちの誇り」にもつながると捉える向きは多い。市自治会連合会の城健康会長(79)も「跡地で何ができるかを考えたら自衛隊関連以外にない。企業の撤退や縮小が続く呉のまちに元気が出る提案だ」と受け止めた。

「人増えるのか」

 ただ、地元の受け止めは一様ではない。経済界からも「物資を置く倉庫だけできて、人が増えないのなら意味がない」と懸念する声が上がる。

 防衛省の構想が浮上してから、市内で反対集会やデモ行進も相次ぐ。21日も市外の人を含む約400人が集会を開き、商店街などを行進。終戦の年に旧海軍施設や市街地が何度も空襲を受けたことを指摘し「跡地の軍事化反対」などと声を上げた。

 呉市は「防衛省の説明を待つ」というスタンスだ。市議会の意見や要望を防衛省と共有するものの、今のところ、市民への説明会を開いたり、直に市民の意見を聞いたりする予定はないという。

 「国がやることだから、どうにかできるようなことではないかもしれない。だけど…」。市内に住む60代の主婦は複雑な気持ちを漏らす。「市は呉のためになる交渉ができているのか。私にはよく分からないまま話が進んでいる気がする」

 海自呉地方隊創設70年を迎える今、呉市は岐路に立つ。新原芳明市長が強調する「将来も市民が誇りに思える判断をする」ためには、情報公開を徹底し、より多くの意見を聞いた上で、日鉄や防衛省に市の意見を主体的に発信していく姿勢が求められる。(小林旦地、衣川圭) =第2部おわり

(2024年4月27日朝刊掲載)

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