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社説・コラム

『潮流』 石川真生さん

■論説委員 石丸賢

 彼女の名前を意識したのは、自宅で取り寄せていた地方紙「沖縄タイムス」の紙面だった。

 手元に記事の切り抜きがある。30年前の1月に始まった連載企画「国を越える」。論はさておき、沖縄の自衛官たちを通し「人間自衛官」を伝える―。そんな思いが、飾らぬモノクロ写真から今でも伝わってくる。

 沖縄の中高生が体験入隊で哨戒機「P―3C」に乗り、コックピットから地元の海を見下ろす光景を撮ったり、自衛官採用試験の面接にカメラを持ち込んだり…。懐深くに食い込んでいた。

 夕刊で週1回の連載記事では、署名がいつも〈写真・文 石川真生(まお)〉だった。フリーランスの写真家だという。

 だいたい新年企画は、どの新聞にとっても腕前の見せ場である。夕刊とはいえ、タイムス社がひのき舞台を他人に明け渡したのも、ひとえに約3年がかりで蓄積してきた彼女の取材の成せる業だったに違いない。

 その石川真生さんが先月、土門拳賞(毎日新聞社主催)を受けた。

 きのう71歳を迎えた石川さんには、半世紀にわたる写真家人生で向き合ってきた問いがある。

 「沖縄って、本当に日本なのか」「沖縄の私たちって日本人なのか」

 米兵相手のバーに自ら勤め、基地の街で生き抜く人々を撮りためた。広島出身の米海兵隊員に沖縄で出会い、追跡取材をしたこともある。

 今回、受賞対象となった個展の題は「石川真生 私に何ができるか」。肌身で時代と切り結びながら、自問自答を重ねてきたのだろう。

 受賞記念の写真展が5月23日から大阪市で、秋には山形県酒田市の土門拳記念館で催される。旅に出る楽しみが増えた。

(2024年4月27日朝刊掲載)

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