×

ニュース

宮本憲一さん 日本への苦言 環境経済学者 若き日に焦土の広島目撃 憲法・自治テーマに対談集

 若き日に復員列車から焦土の広島を目撃した経験を持つ環境経済学者宮本憲一さん(94)=京都市右京区=が、対談集「われら自身の希望の未来」を出した。瀬戸内海の水質汚染など深刻化する公害問題を地方自治の視点から告発してきた現場主義の人が、日本の防衛力強化に対し「中央集権への道であり地方自治無視への道だ」と警鐘を鳴らしている。(客員編集委員・佐田尾信作)

 宮本さんは台湾で生まれ育ち、零戦に護衛された飛行機に乗って1945年4月、海軍兵学校に78期で入学。敗戦後、防府分校から復員する途中で、広島駅で列車にすがりつく被爆者に遭遇し「国民全員が巻き込まれるのが戦争だった」「国家は個人にとって助けにはならない」と痛感した。

 戦後は旧制四高でリベラルな空気に触れ、四高の後身の金沢大などで教え、滋賀大学長を1期務める。この間、岩波新書「恐るべき公害」(環境衛生学者庄司光氏との共著、64年)で公害という言葉を定着させ、数多くの公害裁判で証人に立った。金沢大のほか大阪市立大、立命館大の自身のゼミ卒業生による「宮本背広ゼミナール」が68年から現在まで活動し、本書の編集に携わった。

 宮本さんは4人の識者と近年対談し、作家澤地久枝さんとは「憲法・沖縄・ウクライナ」のテーマで語り合う。戦後の日本が財政法によって戦争への予算支出に歯止めをかけていることに触れ、「憲法9条とこの財政法は本当に守らなきゃいけない」と説いている。

 また、都市政治学者加茂利男さんと地方自治について語り合い、南西諸島で防衛力強化が進めば進むほど、沖縄の自治は無視されると指摘。「地方分権改革がなされたとき、残された最も重要な問題が安全保障だった」「実際に戦時体制になった場合、国民保護法で苦闘するのは自治体なのです。どうやって市民を避難させるのか」と問う。

 本書ではほかに「人新世の『資本論』」著者の東京大准教授斎藤幸平さん、環境活動家アイリーン・美緒子・スミスさんと対談している。

 かもがわ出版、3520円。

(2024年5月1日朝刊掲載)

年別アーカイブ