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社説・コラム

『ひと・とき』 企画展「暁部隊 劫火ヘ向カヘリ」協力者 杉田健司さん 「特攻艇」輸送 不思議な縁

 国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(広島市中区)の企画展「暁部隊 劫火(ごうか)ヘ向カヘリ」で特別展示されている水上特攻艇マルレ(秘匿名「連絡艇」の頭文字)。NHK松山放送局が番組のために製作した原寸大のレプリカだが、保管されていた江田島市から同館まで今回無償で輸送し、組み立てた。

 広島市佐伯区のカープトラック社長。石材業の祖父覚さんが原爆で亡くなり、同社創業者の父勇雄さんも被爆したが一命を取り留める。さらに伯父利明さんが陸軍特別幹部候補生隊(船舶特幹、香川県小豆島)の1期生で、暁部隊の特攻隊―海上挺進戦隊12戦隊のマルレ搭乗員としてフィリピン・リンガエン湾で戦死したことを近年知った。

 身内は原爆や戦争を語らなかった。「伯父は海軍の特攻隊だと思い込んでいたところ遺影の陸軍の軍服に気付きました。船舶特幹3期の和田功さん(同市中区)たちのおかげで突き止めることができたんです」。利明さんの遺書も仏壇の中から見つかり、今回の企画展の資料として提供した。

 またNHK松山の番組に出演して以来、レプリカとも縁があり「今回うちがやらないで誰がやるのか」と無償で分解、輸送、組み立てを引き受けた。会期終了後のレプリカの行き先にも関心を寄せる。杉田家の菩提(ぼだい)寺・浄円寺は被爆前の旧材木町、今の平和記念公園の一角にあった。その意味でも企画展に協力できたことに「不思議な縁」を感じるという。企画展は来年2月28日まで。(佐田尾信作)

(2024年5月4日朝刊掲載)

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