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井伏鱒二 未収録の随筆刊行 ふくやま文学館 中国詩人との交流記す

 福山市丸之内のふくやま文学館は、市出身の作家井伏鱒二(1898~1993年)の全集未収録の随筆「彼の花園」を刊行した。中国出身の日本語詩人黄瀛(こうえい)(1906~2005年)との交流をつづり、発表の時期や掲載誌は不明。同館は「戦争や日中関係に翻弄(ほんろう)された詩人への共感がにじむ作品」としている。

 中国人の父と日本人の母との間に生まれた黄瀛は、留学先の日本で詩人として多くの文化人と交流した。帰国後は中国国民党・蔣介石直属の陸軍将校となった。

 井伏の随筆は原稿用紙9枚。将校として来日した黄瀛との初対面の思い出のほか、1931年の満州事変を機に途絶えるまで頻繁に文通を続けたことを紹介。花畑の設計図を寄せた黄瀛からの最後の手紙を振り返る記述もあり、黄瀛を「優にやさしい花園や古銅器に興趣を感じるといふ人」などと評す。

 黄瀛は戦後、人民解放軍に転じ文化大革命に巻き込まれた。岩崎文人館長は「波乱の生涯を送った黄瀛に井伏は特別な共感があったのでは。胸中に思いを寄せながら読んでほしい」としている。

 直筆原稿の写真のほか、黄瀛に関する井伏の随筆4本も収録する。A4判の40ページで千円。同館☎084(932)7010。 (原未緒)

(2024年5月4日朝刊掲載)

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