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社説・コラム

社説 露が戦術核演習 言語道断の振る舞いだ

 ロシアがウクライナ侵攻の国内拠点で、戦術核兵器の使用を想定した演習の準備を始めた。

 2年前の侵攻開始時から折に触れて核使用をちらつかせてきた。それが、より具体的な動きを交えている現実は見過ごせない。

 欧米のウクライナ支援をけん制するためだろうが、言語道断である。緊張状態の中で「脅し」のつもりが互いの意図を誤解し、実際の使用につながる危険性は否定できない。ロシアは、愚かな行為をただちにやめるべきだ。

 プーチン大統領は通算5期目に入るのに合わせ、演習の準備を指示した。加えてロシアは、戦術核を搭載できる中・短距離ミサイル開発も加速させると発表した。

 戦術核は、局地戦での使用が想定される小型の核兵器である。離れた敵国を狙う長距離ミサイルの戦略核とは異なり、短距離のミサイルや火砲、地雷などに搭載される。

 ロシアと米国は新戦略兵器削減条約(新START)の下、互いを攻撃できる戦略核を減らしてきた。一方、ロシアは欧州での局地戦を想定して戦術核を西側国境に2千発程度置いている。

 戦術核の爆発力は主にTNT火薬で100キロトン以下相当とされる。小型と表現されることもあり、核保有国の間に広がる「使える核」という認識は、核抑止どころか、核使用のハードルを下げるだけであり、とんでもないことだ。

 広島の街を壊滅させた原爆の威力は15キロトンだった。ウクライナで実際に使われた場合の被害は計り知れない。

 ロシアは侵攻直後から核を威嚇の道具に使ってきた。新STARTの履行停止や包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准撤回もその一環だ。同盟国ベラルーシにも戦術核を配備した。

 ロシアの威嚇をきっかけに、核軍拡競争は激しさを増す。米国は核弾頭の近代化を急ぐとともに、英国への15年ぶりの再配備を決めた。

 中国は核弾頭の増強を急ぐ。核兵器の開発を進める北朝鮮に対し、韓国でも核の再配備を求める意見が出始めた。パレスチナ自治区ガザの戦闘でイスラエルの閣僚は核攻撃が「選択肢の一つ」と口にした。

 核兵器を一度使えば核戦争の引き金となり、人類を破滅に陥れる可能性がある。国際社会は重大な「核の危機」が迫っていると改めて認識する時だ。

 まずは核軍拡に歯止めをかけ、管理を徹底して秩序を取り戻す責任が、核保有国にはある。そのためには対話が欠かせない。2年後に期限を迎える新STARTの後継条約交渉を米国は呼びかけているが、ロシアは応じない姿勢を示している。粘り強く働きかける必要がある。

 国際社会の総意として、ロシアに核の使用も脅しも許さないと、厳しく言い続けることが重要だ。

 その先頭に被爆国日本は立つとともに、ロシア、欧米諸国のそれぞれから、対話と停戦合意の糸口を探る役割を果たすべきだ。

(2024年5月8日朝刊掲載)

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