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連載・特集

緑地帯 西元俊典 地域発 総合出版社③

 編集者には「著者に託して伝えたいことを広く世に問える」という醍醐味(だいごみ)がある。東京にいたころから温泉巡りを楽しんでいた私は、趣味を生かし、2003年に「西日本初!中四国・九州・関西エリア まっとうな温泉」を出版した。

 源泉かけ流しの「本物温泉」を紹介した本だ。著者は「旨し湯旨し宿探検隊」。同時期に刊行した「広島快食案内」の著者、シャオヘイさんに「―探検隊」の主宰者を紹介してもらった。当時、循環風呂のレジオネラ菌が社会問題となっており「西日本のかけ流し湯をほぼ制覇し、湯宿・共同湯の情報を包み隠さず伝える」という企画趣旨に賛同。出版を即決した。掲載リストには、個性ある「本物温泉」がずらり。休日、リストから「これは」と思う温泉を選び、極上湯を満喫した。温泉情報の実体験をしたのだ。

 「―探検隊」が約20年かけて泊まって食べてお湯に漬かり、足で稼いだ自腹情報を基に、西日本の約4400軒の宿から129湯281軒を厳選。温泉情報の整理・加工に手間取り、編集態勢は9人に増えたが、マリンブルーの露天風呂や体にガツンと響く濃厚湯など、温泉マニア垂涎(すいぜん)の書となる。顧客目線で「湯・料理・場所」を評価した本書は、2万部のヒット作となった。

 後の温泉本シリーズの刊行にもつながり、「医者選び広島」「広島実力弁護士」「広島快食案内」とともに、「暮らしの評価ガイドシリーズ」の柱となった。(南々社代表=広島市)

(2024年5月9日朝刊掲載)

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