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連載・特集

緑地帯 西元俊典 地域発 総合出版社②

 今も忘れられない光景がある。当社の第1弾「迷ったときの医者選び広島」を刊行した時のことだ。発売初日、広島市内の大型書店へ行った。わが子の学芸会を見守るような心境だった。品出しされる午前に訪れると、店内で一等地といわれるレジ前のテーブルに山積みに展示されていた。約100冊。客の邪魔にならないよう注意しながら、約2時間店内にいた。その間、2人の客が「医者選び」の本を買ったのを見届けた。

 帰り際、店長にあいさつをすると「7冊も売れました。すごいです」と褒めてくれたが、わずか7冊か、と落胆した。しかし翌日になると、書店から追加注文の電話が殺到して増刷となった。後に書店営業をして分かるのだが、発売初日に売れる本は少なく、7冊は「すごい販売数」だったのである。結果的に「4刷、2万部」となり、広島県内でベストセラーとなった。私の作った本を客がレジへ持って行く光景は、出版社経営の原点となった。1冊が売れるありがたさが胸に刻み込まれた。

 編集者は企画を立て、著者を見つけ、デザイナーたちと連携して1冊の本を仕上げる。書店に並ぶ喜びは何物にも代え難い。しかし売れなければ次の本が出せないかもしれないのだ。

編集者の企画に対する本気度が問われる。一番大切なのが「大義名分」である。社会に役立つ本かどうか。売らんかな、が先に来ると失敗する。「迷ったときの医者選び広島」は、医療情報の公開という大義名分があった。(南々社代表=広島市)

(2024年5月8日朝刊掲載)

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