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連載・特集

緑地帯 西元俊典 地域発 総合出版社①

 2023年、当社は創業30周年を迎えた。私は、東京の出版社を辞めて、1993年に広島でフリーの編集者として独立した。故郷は山口県周防大島町だが、編集者という仕事柄、100万都市に居を構えることにした。編集の仕事に携わる中、「医療情報を公開する本を出したい」と思い立ち、99年に広島市東区で出版社を起こした。

 まず、社名が必要だ。そこで知人である広島市在住の作家見延典子さんにお願いした。実は、見延さんは10個余り候補を挙げてくれたが、どれもしっくりこなかった。すると「私が何か始める時のために取っておいたものだけど」と、見せてくれたのが南々社だった。

 語呂がいいのと「ん」が二つあるので、この名前に即決した。というのも「出版界では『ん』が付く社名は縁起がいい」と聞いていたからだ。札幌市出身の見延さんは、結婚して広島へ来た時、はるか南の暖かい国に来たという感覚があり、この名前を思い付いたという。

 電話番のアルバイトを1人雇い、出版活動をスタートした。第1弾は「迷ったときの医者選び広島」。診療科別に専門医を紹介したこの本は、2万部のベストセラーになった。以来、さまざまなジャンルの約230点を刊行。気付けば、既刊本を保管する書棚がいっぱいになっている。「地域の総合出版社」として活動してきた30年を振り返りたい。(にしもと・としのり 南々社代表=広島市)

(2024年5月7日朝刊掲載)

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