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社説・コラム

[A Book for Peace 森田裕美 この一冊] 「カメラにうつらなかった真実」 エリザベス・パートリッジ文、ローレン・タマキ絵、松波佐知子訳(徳間書店)

日系人収容の実情 立体的に

 戦争はあまたの不条理を生む。第2次大戦下、米国での日系人強制収容もその一つだろう。

 日米開戦を受け、米政府は西海岸の日系人ら約12万人を「敵性外国人」として強制的に退去させ、収容所に送った。本書は、カリフォルニア州中部マンザナー強制収容所を撮影した3人の写真家の視点から、実情を伝えるノンフィクション絵本である。

 その1人、ドロシア・ラングは米政府の命で撮影に当たる。政府の狙いは、収容が人道的かつ正しいやり方で行われていると写真で証明すること。だがラングは、人権無視の仕打ちを人々に知らせようとシャッターを切る。過酷さが伝わる写真は公開不可とされ、やがて撮影も制限された。孫と祖父を撮っただけのように見える一枚は、読者にこう投げかけているようだ。「本当にこの人たちは、国家の安全をおびやかすのか?」

 収容されていた日系人の宮武東洋は、こっそり持ち込んだレンズで、当事者目線で記録を続けた。ただ、所内でのトラブルや弾圧といった「事件」は写せなかった。自分まで捕まってしまう恐れがあったからだ。

 風景写真家として知られたアンセル・アダムスは、日系人が「善良な市民」に見えるようポーズを取らせ、くじけず生きる姿をカメラに収めた。写真の中の日系人は皆、笑みをたたえている。

 三者三様の写真が、文とイラストで補われ、写らなかった出来事も含め、日米のはざまに生きた人々の体験を立体的に見せる。

 〈写真にうつっているものがすべて真実とはかぎらない〉―。当事者の言葉に、胸をつかれる。私たちの過去との向き合い方をも問うている。

これも!

①山崎豊子著「二つの祖国」1~4巻(新潮文庫)
②ジミー・ツトム・ミリキタニ画と言葉、マサ・ヨシカワ編著「ピース・キャッツ」(ランダムハウス講談社)

(2024年5月14日朝刊掲載)

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