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社説・コラム

朝凪(あさなぎ) 二重被爆が生んだ差別

 今月初め、祖父が97歳で旅立った。高校卒業まで広島市内で3世代同居し、かわいがってくれたことへの感謝を込めて見送った。そんな矢先に、93歳で亡くなった被爆者の孫の講演を聞き、胸が詰まる思いがした。

 広島と長崎で二重被爆し、2010年に亡くなった山口彊(つとむ)さん。11年に英BBCテレビの娯楽番組で「世界一運が悪い男」と紹介され、制作側が批判を集める騒ぎになった。

 山口さんのドキュメンタリー映画も見た。「長生きして恥ずかしくないのか」「2度被爆しても生きていられるのは原爆被害に対する誤解を与える」…。心ない言葉を浴びて涙ながらに回想する姿に、晩年まで差別を生む原爆の罪深さをあらためて思い知った。みたび原爆を使わせまいと、老いや病を押して証言する被爆者には感謝しかないのに。(社会担当・野平慧一)

(2024年5月15日朝刊掲載)

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