×

連載・特集

緑地帯 西元俊典 地域発 総合出版社⑥

 ネット時代であっても本にはモノとしての強みがある。紙としての手触りと確かさ。優れた一覧性があり、気になる箇所を手軽にマーキングしたり、折り目をつけたりできる。1冊の本というパッケージに情報が凝縮された媒体はほかにはない。

 当社が2007年に刊行した「瀬戸内海事典」を紹介しよう。読む事典と位置づけ、編集に約6年かけて、88人の専門家が執筆した。表紙カバーは瀬戸内海のパノラマ鳥瞰図(ちょうかんず)。カバーを広げると瀬戸内海が見渡せる1枚の立体的な地図のようになっている。この事典は、五十音順ではなくテーマ別にすることで体系的に理解できるように編集した。見返しには大正時代の瀬戸内海のパノラマ鳥瞰図を刷り込み、カバーと見比べることができる。

 瀬戸内海の入門書として、自然・地理、観光、食文化、歴史など16分野、215項目を選定。やさしい文章で解説した。コラムも44本掲載し、本文を読み解くための一助とした。

 完成した「瀬戸内海事典」はA5判608ページに写真329枚、図版103点を収録し、厚さ(背幅)は43ミリ。本の強みを十分に生かした、瀬戸内海エンサイクロペディアとなった。 この本は11年、「第1回アマルフィ・ピープルズ・ブリッジ国際賞」を受賞した。世界遺産に登録されているイタリアのアマルフィ市から、「水辺都市」の歴史や芸術、景観、社会、環境に関する出版物に対して授与されるものだ。(南々社代表=広島市)

(2024年5月15日朝刊掲載)

年別アーカイブ