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連載・特集

[SDGsひろしまトライ] 若者同士の語らい 平和の鍵 NPO法人ピース・カルチャー・ビレッジ(広島市西区)

学生ガイド「あの日」伝える

 同世代での学び合いが、次世代に平和への思いをつなぐ鍵になる―。広島市西区のNPO法人ピース・カルチャー・ビレッジ(PCV)は、広島の10、20代が修学旅行生のガイド役を務める平和教育プログラムを実践している。被爆者の高齢化で証言を聞くのが難しくなる中、持続可能な新たな平和学習の形を目指している。(余村泰樹)

 4月下旬の平和記念公園(中区)。PCVの大学生や高校生計4人が、栃木県大田原市から修学旅行で来た金田南中の3年生約30人を案内した。4人は研修を受けた「ピースバディ」と呼ばれるガイド。生徒を連れて原爆ドームや韓国人原爆犠牲者慰霊碑を巡った。

 ガイドの一人、広島県立叡啓(えいけい)大3年中晴輝さん(20)は札幌生まれの大阪育ち。進学で広島に来たと自己紹介し「僕も平和について知らないことが多い。みんなと一緒に学びたい」と生徒に語りかけた。

 プログラムはPCVと旅行大手JTBが開発し、2020年9月に始まった。これまでに約130人がガイドを務め、23年までに約5万3千人を受け入れた。

 プログラムが生まれた背景には、従来の平和学習では大人が「平和」についての答えを用意し、子どもたちが受け身になりがちだったとの課題意識がある。このため、PCVは若者同士の対話や問いかけを大切にし、生徒自身が平和とは何かを考えるよう促す。

 例えば、平和記念公園のある中島地区が戦前に繁華街だった頃の暮らしぶりをただ伝えるだけでなく、修学旅行生に毎朝の過ごし方を尋ねた上で「あの日」の朝に思いをはせてもらう。生徒の日常に引きつけ、原爆の惨禍を自分ごととして感じてもらう狙いだ。

 ツアー後の振り返りにも力を入れる。参加者は印象に残ったことや大切にしたいものを発表し、ガイドはお互いの意見に耳を傾けるよう促す。金田南中3年田辺結愛良(ゆあら)さん(14)は「原爆で韓国人も犠牲になったと初めて知った。戦争は日常を一変させるので、友達と楽しく過ごせる平和な毎日を大切にしたい」と誓った。

 ツアーが有償なのも特徴だ。平和活動を担う若者を育てるためで、報酬はガイド1人につき、1時間半で2500円。責任感が生まれ、ツアーの質が向上するという。

 学生時代の経験を生かし、卒業後に仕事として活動を続けるメンバーもいる。楢崎桃花さん(23)はガイドをきっかけに、オンラインでの国連のイベントに参加。原爆からの復興や平和の思いをスピーチする機会を得て、PCVに就職した。

 山口晴希・平和教育事業統括ディレクター(30)は「若者は自らの言葉で平和について伝える経験をすることで確実に成長していく。平和をつくる有意義な活動が仕事として成り立つようにしていきたい」と語る。

減る被爆証言者 役割継ぐ伝承者

 原爆投下から今年で79年。被爆体験を語れる証言者が減る中、被爆の実態や平和への思いをどう受け継ぐかは被爆地の大きな課題となっている。

 厚生労働省によると、被爆者健康手帳を持つ人の平均年齢は昨年3月末時点で85・01歳。前年の同時期と比べて0・48歳上がり過去最高となった。人数は5286人減の11万3649人で、最も多かった1981年3月末(37万2264人)の3分の1を下回る。

 広島市が管理する手帳の所持者は3万9374人と1年間で216人減り、平均年齢は84・62歳と0・48歳上昇。広島市を除く広島県管理分は1万4086人で289人減り、平均年齢は86・33歳で0・19歳上がった。

 広島市によると、市の「被爆体験証言者」として本年度活動する被爆者は32人(2024年4月時点)。過去10年で最も少なく、平均年齢は86・5歳と高齢化が進む。

 市は高齢化に伴う証言者の減少を受け、12年度から第三者の「被爆体験伝承者」、22年度から子や孫の「家族伝承者」を養成している。ことし4月時点では計264人いる。修学旅行生たちに講話し、被爆の惨禍を伝える役割を担っている。

(2024年5月16日朝刊掲載)

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