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被爆体験伝承者 講話聴講伸びず 原爆資料館 毎日4回開催 23年度 定員の平均3割 ゼロも33回

 原爆資料館(広島市中区)で毎日4回開かれている被爆体験の伝承者による講話の聴講者が、伸び悩んでいる。2023年度は入館者数が過去最多を更新する中で聴講者は定員の平均3割ほどにとどまり、新型コロナウイルス禍前の水準に届いていない。ゼロの回も33回あった。伝承者は増えており、託された「あの日」の記憶を一人でも多くに伝えたいと願う。(山下美波)

 「ピカ! 光と同時に炎の塊が電車を覆い尽くしました」。4月26日、資料館東館地下1階の一室で被爆体験伝承者の品川千恵美さん(71)=東区=が在日韓国人被爆者の朴南珠(パクナムジュ)さん(91)の講話を始めた。35席ある会場にいたのは、京都府京田辺市から観光で訪れた会社員池田綾香さん(34)の1人。約1時間の講話中に、もう2人が集まっただけだった。

「地下まで来ず」

 品川さんは以前、聴講者ゼロを経験した。「資料館入り口は列ができているけど、講話のある地下まで来る人が少ない」と肩を落とす。事前に案内チラシを入館者に配っているが、不審がられることもあるという。チラシを受け取って参加した池田さんは「資料館で見た内容を整理でき、そのまま帰らないで良かった」と喜んだ。

 講話は毎日、日本語で3回、英語で1回ある。予約は要らず、無料。被爆者の証言を受け継ぐ子や孫たち「家族伝承者」と、第三者の「被爆体験伝承者」がボランティアで被爆者の体験や平和への思いを伝えている。被爆者の高齢化を受け、市は12年度から被爆体験伝承者、22年度から家族伝承者を養成。先月1日時点で延べ264人おり、23年度比41人増えた。

 ただ、資料館によると、23年度の講話は1379回で聴講者は計1万4575人、1回平均10・6人だった。コロナ禍で終盤に休館した19年度は通常の1日3回を夏に5回にして広い会場を使った違いはあるが、1068回で1万9440人が聴講していた。

 一方、23年度の英語の回は5111人で全体の35%を占め、外国人の関心の高さもうかがえる。先月末に英国から観光で訪れたポール・ローラスさん(56)は参加後、「興味深い話を聞けて良かった」と話した。

館内PRに制約

 伝承者の講話の紹介は資料館の館内看板やホームページにとどまる。啓発課は「館内放送や多くの張り紙は展示をゆっくりと見てもらう資料館の性質上ふさわしくない。混雑のため、窓口でのチケット購入時に案内もできない」と頭を悩ます。折を見てPRを拡充するつもりはあるという。

 被爆体験伝承者の1期生、青木圭子さん(71)=安佐北区=は「入館者は原爆被害を知ろうと、資料館に来ていると思う。原爆ドームを見るのと同じように、講話も聞いてほしい」と呼びかけている。

(2024年5月17日朝刊掲載)

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