×

連載・特集

緑地帯 西元俊典 地域発 総合出版社⑧

 昨年秋から年末にかけて、創業30周年記念フェアを県内12書店で開催した。キャッチフレーズは「広島を深く知るために」。当社の既刊約230点の中から医療評価ガイドをはじめ、自然、歴史、ビジネス、絵本など42点をセレクトした。

 その中には、約20年前に刊行した大人向け季刊誌「がんぼ」創刊号の建築家特集や、仏教特集を掲載した最終号があった。フェア終了後、予想外に売れていたのには驚いた。広島の情報を丁寧に掘り起こしたものは、刊行して相当年数がたってもニーズがあることを再認識した。

 ところで、当社の基本理念は「人びとの生活に役立つ、信頼できる、新しい発見のある情報を発信します」である。この理念をベースに刊行してきた。

 ネット社会が進展し、書店も激減するなか、本の存在価値とは何か。まさしく出版社の生き残りの核となるテーマだ。それは、一覧性という強みを生かし、出所のある信頼できる情報をインターネットにはない「モノというパッケージ」に詰めて、一冊一冊、届けることだ。

 本がずらりと並ぶ書店は情報の宝庫だ。思わぬ本との出合いが生まれ、読者をわくわくする世界に導く。若者の書店回帰の動きにもつながるはずだ。

 地域の総合出版社として、社員とともに、次の30年に向けて、広島を元気に、楽しくする本を刊行していきたい。本という媒体を通じて、多様なメッセージを社会に発信できるのは編集者の特権なのだから。(南々社代表=広島市)=おわり

(2024年5月17日朝刊掲載)

年別アーカイブ