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連載・特集

問われる「成果」 広島サミットから1年 <2> 遠い「核なき世界」

米への依存強める日本

首相の思い 被爆者と隔たり

 広島県主導の官民組織「へいわ創造機構ひろしま(HOPe)」は4月、各国の2023年の核軍縮の取り組みを採点した「ひろしまレポート」を公表した。被爆地の広島市で先進7カ国首脳会議(G7サミット)があったにもかかわらず、日本の評価は3年ぶりに下がった。レポートは「核兵器を含む米国の拡大抑止への依存を高めている」と指摘した。

 「核なき世界」の実現をライフワークと公言する岸田文雄首相。外相時代から一貫する「保有国を巻き込む」との思いは昨年5月のサミットで実を結んだかに見えた。

 米、英、仏の核保有3カ国を含む7カ国の首脳が平和記念公園の原爆慰霊碑に献花した。8歳の時に広島市で被爆した小倉桂子さん(86)との面会も実現させ、核廃絶への決意は共有した。

 サミットの流れはロシア、中国を含む核保有5大国がそろう国連安全保障理事会での軍縮議論につながる。政府は今年、安保理議長国として核軍縮を扱う閣僚級会合を初開催した。上川陽子外相は席上、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始を探る会合新設を表明した。

 それでもHOPeの評価は下がった。この1年、政府による米国の「核の傘」への依存は目立った。昨年12月の国連総会では「核兵器による安全保障の強化を懸念する」との決議を棄権した。今年4月には首相が米議会で「日米同盟の抑止力はかつてなく強力だ」と発言。米国の核戦力を含む「拡大抑止」の重要性を原爆投下国で披露した形となった。

 そもそも広島サミットでG7首脳が合意した核軍縮文書「広島ビジョン」も「核兵器は防衛目的に役割を果たすべきだ」と明記している。サミット後、「核なき世界」を志向しながらも核兵器の意義を強調するという岸田政権の矛盾は強まっている。

 ある外交筋は「核兵器廃絶は数十年先の話だ」と本音を漏らす。ロシアや中国、北朝鮮が核、ミサイル能力を増強する中、安全保障には「核抑止が不可欠」との立場からだ。核廃絶への道筋を探ろうと首相が2022年12月に創設した国際賢人会議も同様。過去3回の会合で「核抑止」からの脱却に向けた議論は深まっていない。

 今月4日、ブラジル最大の都市サンパウロ。首相は、広島市で被爆し、戦後に移住した渡辺淳子さん(81)たち3人の被爆者と向き合い、核廃絶への持論を語った。「まず核兵器を持っている国を動かさないといけない。そのために一生懸命やっている」

 ただ被爆者が首相に願う「一歩」は、核兵器を違法と断じる核兵器禁止条約への参加だ。渡辺さんたちの直訴に首相は「それは分かっています」と応じたという。渡辺さんは言う。「思いがあるなら前進してほしい。核の脅威が増す今だからこそ」(宮野史康)

(2024年5月20日朝刊掲載)

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