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社説・コラム

『潮流』 技術は人を助けるか

■論説副主幹 漆原毅

 人が立ち入りにくい中国山地の設備の点検に、ドローンが活躍している。田んぼに農薬をまくのも、人手に頼るよりずっと早く済む。喜ぶ人の顔を見ると、技術は人を助けると改めて思う。

 そんな便利なドローンが、ロシアのウクライナ侵攻で、両国の主力兵器になっている。人工知能(AI)を搭載し、自動的に標的を追いかけて攻撃する。

 イスラエル軍もパレスチナ自治区ガザでの空爆で、標的を識別し追跡するのにAIを使っていると伝わる。

 豊かな社会をもたらすべき科学技術が、対極にある戦争で人を殺す道具になっていることが残念でならない。そして、怖い。無人で感情を持たず、攻撃の精度が高い機体が飛び回っている光景など想像もしたくないが、現実にあるのだ。

 AIは、ビジネスの効率化や学問の発展に使われるべきものだろう。ドローンが近年、急速に普及したのも産業の支援や個人の趣味に用途が広がったためだ。子どものおもちゃもある。これが、戦地で子どもの命を奪う兵器になっていいはずがない。

 夏目漱石の小説「行人(こうじん)」に、こんな一節がある。「人間の不安は科学の発展から来る。進んで止まる事を知らない科学は、かつて我々に止まる事を許してくれた事がない」

 生活やビジネスを便利にする技術開発は当然、続けていくべきだ。だが、技術の発展は戦争と切り離せない。人類は新しい技術とどう共存するのか。

 AIもドローンも徹底的に平和のために使い、戦争利用の動きを圧倒できないか。平和を望む人の方がはるかに多いはずだから、きっとできると思いたい。

(2024年5月18日朝刊掲載)

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