×

連載・特集

問われる「成果」 広島サミットから1年 <1> 「原点を知って」

 初の被爆地開催となった広島市での先進7カ国首脳会議(G7サミット)から19日で1年になった。原爆の惨禍を刻み、核兵器のない平和な世界を願うヒロシマへの注目を高める契機となったが、国際社会では核兵器保有国による争いが絶えない。サミットの「成果」とは何だったのか。現状をみる。

国内外から人波絶えず

資料館の発信力 増す重要性

 入館者で混み合う原爆資料館(中区)は見慣れた光景となった。被爆者が着ていた衣服や焼け焦げた弁当箱…。今月上旬も、修学旅行生をはじめ、国籍や年代もさまざまな人たちが79年前の惨状と向き合っていた。

 「子どもや家族を失った被爆者の証言ビデオに心を打たれた」。ドイツから観光で訪れたヘンリー・コーダスさん(65)は言葉を絞り出し、1年前のサミットに思いを巡らせた。「私たちのリーダーは展示を見て何を感じただろう」

 サミット初日の昨年5月19日、核兵器保有国の米英仏を含むG7と欧州連合(EU)の首脳がそろって資料館を訪れた。見学後には、「核兵器のない世界」や平和への思いを芳名録に刻んだ。

 首脳たちが見たのは、東館3階に集められたごく一部の資料に過ぎず、詳しい様子は明かされていない。だが、触発されたかのように、国内外から大勢の人波が押し寄せている。夏には最大2時間の入館待ちが発生。2023年度の入館者数は198万1782人で過去最多を更新し、うち外国人は67万757人と、人数、割合とも記録を塗り替えた。

 「国際平和文化都市広島への期待度、関心は高まっている」。資料館を運営する広島平和文化センターの谷史郎副理事長は、この1年をそう総括する。新型コロナウイルス対策の緩和や円安の影響に加え、くしくも、サミット後に緊迫の度合いを増した世界情勢も被爆地に関心が向く一因になったとみる。

 コーダスさんも混迷を深める中東情勢など、戦火がやまない世界を憂う。「サミットは政治的なシンボルに過ぎない。でも、これを機にいかに国内外の人が核兵器の問題に関心を寄せるかが大事だ」と受け止めた。

 ヒロシマの訴えを発信してきた被爆者たちの模索は続く。サミット期間中、海外メディア関係者を前に被爆証言に立った近藤康子さん(83)=西区=もその一人。「サミットで世界から注目してもらったのは良いが、これで終わっちゃいけんのんじゃないか」

 00年から平和記念公園内の慰霊碑などを案内する「ピースボランティア」を務めてきたが、サミット後は入退院を繰り返し、証言やガイドに立てていない。海外での戦火を報じるニュースに接するたびに子どもたちの逃げ回る姿が被爆の記憶と重なるといい、「つらい思いをした被爆者を二度とつくっちゃいけん。資料館を見てほしい」。年内の活動再開を目指して歩行練習を続けている。

 ヒロシマの原点が詰まった資料館。サミットはその訴求力に改めて光を当てた。被爆から来年で80年。心身の傷を負いながら平和への思いを語ってきた被爆者が老いを深める中、資料館の発信力は重要性を増す。(野平慧一)

先進7カ国首脳会議(G7サミット)
 核兵器保有国の米国、英国、フランスと、米国の「核の傘」に依存する日本、ドイツ、イタリア、カナダが毎年交代で議長国を務め、欧州連合(EU)も加わる。2023年は日本政府が5月19~21日に広島市で開き、平和記念公園(中区)や宮島(廿日市市)への訪問も日程に組み込んだ。サミット初の核軍縮に特化した合意文書「広島ビジョン」をまとめ、現実的、実践的に「核兵器のない世界」を目指す姿勢を示す一方、核抑止を肯定した。拡大会合にはインド、韓国、ウクライナなど9カ国の首脳と国際機関の長たちを招いた。

(2024年5月19日朝刊掲載)

年別アーカイブ