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連載・特集

緑地帯 能登原由美 英国社会と音楽①

 2022年9月から1年間、英・ロンドンの大学で研究に従事する機会を得た。私の専門は西洋音楽史だが、目下のテーマは「戦争と音楽」。特に第1次世界大戦から第2次世界大戦に至る英国での創作活動に焦点を当て、文献資料や楽曲などを基に調査を行っている。

 欧米では「大戦争」と呼ばれる最初の世界大戦は、未曽有の犠牲者を生むとともに、社会に精神的荒廃をもたらしたことで知られる。これを契機に戦争博物館の建設や記念碑の建立が行われ、戦死者を追悼するべく始まった行事は今なお盛大に行われるなど、記憶の継承へとつながるさまざまな事象が生み出されるきっかけにもなった。

 また、平和構築という意味も含め、戦争を科学的見地から探求する学術分野も発展している。今回所属した大学には音楽の視点から英国社会と戦争について追究している研究者がいることを知り、受け入れ教員となってもらった。

 ただし、机に向かうだけでは現地にいる意味がない。特に音楽であれば、実際に鳴り響く音にも耳を傾けることが重要だ。あるいは、せっかくの海外生活なのだから人々の日常の暮らしもしっかり観察しておきたい。

 こうして、わずか12カ月の短い暮らしではあったが、そこで垣間見た英国の今、特に音楽文化を通して見えてきたものを、この場を借りて伝えたい。(のとはら・ゆみ 大阪音楽大特任准教授=広島市出身)

(2024年5月21日朝刊掲載)

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