×

連載・特集

問われる「成果」 広島サミットから1年 <4> 経済効果

訪日客数 追い風続く

関連産品や食材は限定的

 グランドプリンスホテル広島(広島市南区)1階ロビーは、記念撮影をする訪日客が絶えない。昨年5月に先進7カ国首脳会議(G7サミット)の主会場になって以降、G7各国の国旗と欧州連合(EU)の旗を掲げている。

 4月下旬にスペインから団体旅行で訪れたエレナ・ガシャルドさん(57)は「サミットがあったホテルだと知っていた。最上階から見える景色とスタッフの対応が最高」とほほ笑んだ。

 ホテルの1~4月の宿泊者数は、新型コロナウイルス禍前の2019年の同時期とほぼ同じ水準に回復した。平瀬春男総支配人は「期待以上の反響。サミットの主会場となったホテルとして、お客さまの期待に応えたい」と気を引き締める。

 サミットはコロナ禍の打撃から立ち直る地域経済の追い風になった。観光庁の宿泊旅行統計によると、23年の広島県の外国人延べ宿泊者数は約129万2千人泊(速報値)と前年の9・1倍。19年よりも2・3%少ないが、月別では11月が19年同月に比べ42・2%増え、12月は29・4%多かった。円安も相まって今年も好調が続き、2月は35・6%上回った。

 サミット期間中に英国のスナク首相が訪れたお好み焼き作り体験施設オコスタ(南区)も、訪日客の人気が高まった。来場者に占める訪日客は、コロナ禍前の2割程度から今年4月には5割を超えた。英国からの団体客も増えているという。

 サミットから1年。ホテルや観光スポットが経済的な恩恵を受ける一方、参加国の首脳たちに贈られ話題を呼んだ産品や、会食で振る舞われた地元産の食材への波及効果は限定的だ。

 会談で首脳たちが座った椅子「HIROSHIMAアームチェア」を手がけたマルニ木工(佐伯区)は、サミット後に問い合わせは増えたが、売り上げに大きな変化はないという。ただ、自社製品が世界に発信される貴重な機会になった。土井康義取締役は「長期的にみればブランド価値は上がった。次に購入する家具の選択肢に入っているはずだ」と期待する。

 経済効果を一過性に終わらせないためには、サミットで高まった広島への注目度を利用する継続的な取り組みが欠かせない。日帰りの観光客が多く、宿泊者が少ないのは長年の課題。他の政令市より開催が少ない国際会議などのMICE(マイス)の誘致に「サミット効果」を生かす戦略も求められる。

 広島サミット県民会議の副会長を務める広島商工会議所の池田晃治会頭は、こう説く。「夜の観光や広島を拠点とした山陰などへの周遊ツアー、富裕層向けの観光ビジネスなどに官民一体で取り組まなければならない」。息の長い効果につなげるため、真価が問われるのはこれからだ。(加田智之、黒川雅弘)

(2024年5月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ