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社説・コラム

天風録 『英首相の決断』

 英国のスナク首相が下院を解散し、7月に総選挙を行うと表明した。任期満了は12月。物価上昇が落ち着く見込みの秋まで選挙はない、という予測を覆した。大きな賭けに出たのだろう▲インド系の大富豪。ちょうど1年前、就任後初の先進7カ国首脳会議(G7サミット)で広島にやって来た。お好み焼き作りを楽しみ、広島東洋カープの赤い靴下を履く姿が、にわかに人気を集めた。だが、英国では政権浮揚とはいかなかったよう▲10年以上も政権の座にある与党を率い、総選挙が近づく中で減税策…。岸田文雄首相と状況は似通う。おまけに、低支持率に苦しむところまで同じとは。本人たちは笑えない話だろう▲「金銀は火の中でこそ試される」。困難な状況でこそ真価が問われるという、インドのことわざである。不利を承知で戦う、自らの勇ましさを強調したかったのか。それとも破れかぶれ戦法なのか。真意はさてどこに▲そぼ降る雨に打たれながら官邸前で会見し、経済政策で信を問うと訴えた。演出は広島では人気だったが、ずぶぬれ姿は過ぎた感もある。冷静な英国民がどんな判断を示すのだろう。境遇が重なる岸田首相も結果が気になるに違いない。

(2024年5月25日朝刊掲載)

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