×

社説・コラム

社説 [地域の視点から] PFAS問題 規制強化で被害の予防を

 中国地方など全国の河川や地下水から高濃度の有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)が確認されている。

 聞き慣れない物質だが、1万種類以上あるとされ、水や油をはじき、泡消火剤や界面活性剤に使われてきた。極めて分解されにくく「永遠の化学物質」と呼ばれる。人体への影響はよく分かっていないが、発がん性などが指摘される。知見を得て被害を予防する作業を急がねばならない。

 PFASのうち毒性が強いとされるのがPFOA(ピーフォア)とPFOS(ピーフォス)だ。製造、輸入が原則禁止されている。国は河川や井戸の水1リットル当たり2種で計50ナノグラム(ナノは10億分の1)を暫定指針値とする。環境省の2022年度調査では16都府県の111地点で超えた。

 中国地方では東広島市が昨年12月、瀬野川水系で指針値の2・8倍のPFASを検出したと発表した。その後300倍の井戸水も確認された。

 市は米軍川上弾薬庫が汚染元の可能性が高いとみる。弾薬庫の上流は指針を超えていないためだ。だが米軍の許可なく施設に立ち入れない日米地位協定が壁になり、基地内の調査が実現していない。

 PFASが注目され始めたのは16年の沖縄からである。この時も米軍基地が汚染元とみられたが、米軍は調査に協力しなかった。しかし協定があろうとなかろうと調査に協力するのが筋だろう。日本政府も強く要求するべきだ。

 岡山県吉備中央町も昨年10月、浄水場でPFASが指針を超えたと発表した。水道水にも含まれていた。

 周辺住民27人が血中濃度を調べると、米国ガイドラインで腎臓がんなどのリスクが高まるとされる1ミリリットル当たり20ナノグラムを全員が超えていた。中央値は162ナノグラムだった。日本に血中濃度の基準はない。

 PFASを吸着した使用済みの活性炭が浄水場近くで長年、野ざらしにされてきたためとみられる。同町は20年度の検査で既に指針を超えていたのに県などに報告していなかった。許されない対応だ。

 住民に健康不安が広がっている。PFASは不明な点が多いだけに、しっかりデータを集め、どれだけ人体に危険か根拠のある基準を作る必要がある。並行して被害を想定した取り組みも要るだろう。

 世界では対応が進む。世界保健機関(WHO)は昨年12月、PFOAとPFOSの発がん性の評価を引き上げた。米国は今年4月、水道水について2種で1リットル当たり計70ナノグラムとしていた勧告値を各4ナノグラムの規制値に改めた。

 フロンガスのように普及後に環境への悪影響が分かって規制された物質もある。予防的な措置を優先する米国に倣うべきではないか。

 環境省は近く自治体などが取るべき指針を示す。調査できていない地域を含め、くまなく調べるべきだ。行政の役割は住民の安全確保であり、よく分からないと言って手をこまねいている時間はない。

(2024年5月25日朝刊掲載)

年別アーカイブ