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イスラエル招待 波紋 平和記念式典 広島市方針 市民・被爆者 参列反対/露も呼んで

 広島市が8月6日の平和記念式典にイスラエルの政府代表を招く方針を示し、波紋を呼んでいる。核兵器廃絶と非戦の思いの共有へ、広く各国代表を呼ぶのが市の従来の基本姿勢だが、パレスチナ自治区ガザへの攻撃で大勢の市民が犠牲になる中、イスラエルの参列に反対する声がある。ウクライナ侵攻を続けるロシアは招いておらず、整合性も問われている。(下高充生)

 松井一実市長は今月16日の記者会見で、式典へ各国代表を招く意義を「広島の思いを直接聞き、広島の心を理解してもらうため」と説いた。イスラエルに関しても「広島に来て考えてくださいというのは原則だ」と主張した。

 市は1998年に核兵器保有国の首脳へ招待状を送り始め、2006年には日本に大使館のある全ての国の駐日大使も加えた。パレスチナは対象外だが、事実上の核保有国のイスラエルは09年から参列している。ただ、23年10月から続くイスラム組織ハマスとの戦闘でガザ側の死者が3万5千人を超えた今回、イスラエルの式典参列に被爆地で反発が出ている。

 市民団体「広島パレスチナともしび連帯共同体」は4月以降、招待の「撤回」を求めている。今月15日には、オンラインで集めた約2万5千筆の署名を市へ届けた。団体の湯浅正恵さん(61)は「イスラエルが今何をしているのか。式典に呼ぶのはイスラエルによるジェノサイド(民族大量虐殺)を容認するメッセージを世界に送ることになる」と批判する。

二重基準を否定

 市が式典に招かない「例外扱い」をしているのが、22年にウクライナ侵攻を始めたロシアと、支援するベラルーシだ。

 イスラエルとの対応の違いに広島県被団協(佐久間邦彦理事長)などは「二重基準と言われても仕方ない」と指摘。これに対し、市は紛争当事国かどうかでなく「式典の円滑な挙行」への影響を招待見送りの理由に挙げ、「二重基準ではない」と反論している。

 一方で、市の意思決定の過程で外務省の意向が働いた面は否めない。

 市が中国新聞の情報公開請求で開示した文書によると、当初は22年の式典にもロシアのプーチン大統領と駐日大使を招く方向だった。外務省に見解を問われ、緊迫した状況だからこそ被爆地で核兵器使用の惨禍を理解し、廃絶以外に根本的解決はないと認識してもらうのが「被爆地ヒロシマの責務」と答えている。

 これに対し、外務省ロシア課は「市が式典にロシアの大統領や大使、ベラルーシ大使を招けば、日本政府の姿勢について誤解を招くことになり、適当でない」と言明していた。市は結局「式典が外交上支障を来すことがないようにすべく、招待を見送る」と同省に伝達した。市は取材に、同省の見解も参考にしつつ「式典主催者として判断した」とする。

「理念貫くべき」

 元広島市長の平岡敬さん(96)は、ロシアを含めて招くべきだとし「呼ばないのは努力の放棄。選別するのは間違い」との立場だ。95年に核兵器の使用・威嚇が合法か否かを審理する国際司法裁判所の法廷で陳述した際、戦後の日本政府の見解とは異なり、核兵器使用が国際法違反であると訴えた。「自治体には自治体の理念がある。それを貫くべきだ」と強調する。

 広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長は、イスラエルの招待に疑問がないわけではないとしつつ「ロシアやイスラエルを含め全ての国の代表が式典に参加し、原爆資料館も見て、核兵器を使うと何が起こるのか学んでほしい」と望んだ。

(2024年5月30日朝刊掲載)

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