『潮流』 文字と想像力
24年5月30日
■報道センター文化担当部長 道面雅量
先日、第56回目となる中国短編文学賞の贈呈式があった。大賞受賞者の眞鍋敢(かん)さんは、非常勤講師として勤める高校で「情報」の授業を担当している。受賞者を代表してのあいさつで、生徒にも説くというデジタルデータのデータ量についての話をした。
文字というのはデータ量が小さく、動画は非常に大きい。かつて一般的だったフロッピーディスク1枚に、文字なら400字詰め原稿用紙1800枚分が収まるが、動画データを通常の方法で入れようとすると、解像度にもよるが3、4秒程度しか収まらないという。
「動画には動きがあり、色があり、音がある。それらがない文字は圧倒的に不利といえるが、小説を読むと、読み手の脳内にはその世界が広がる。それを可能にするのが想像力」と眞鍋さん。文字は情報量の少なさ故、人間に想像力を働かせる、と述べた。
記者としての自らの仕事を反省させられる。文字が想像力を起動するとして、安易な使い方ではその可能性を損なうだろう。例えば「平和」という2文字に、単に「戦争がない状態」の意味を込めるのか。
「パレスチナに平和を」と書いてみて、パレスチナ人がイスラエルの占領政策を耐え忍ぶことではないという思いは募る。では、どんな状態を想像させたくて「平和」の2文字を使うのか。読み手と想像力を共有し、そのイメージをつくり出すために、この2文字がある気もする。
眞鍋さんは「いつも妻に『大げさなことを言いなさんな』と言われる」と断りながら、「文字こそが世界を平和にできる」とも述べた。想像力をかき立てる、データ量14文字の一文だ。
(2024年5月30日朝刊掲載)
先日、第56回目となる中国短編文学賞の贈呈式があった。大賞受賞者の眞鍋敢(かん)さんは、非常勤講師として勤める高校で「情報」の授業を担当している。受賞者を代表してのあいさつで、生徒にも説くというデジタルデータのデータ量についての話をした。
文字というのはデータ量が小さく、動画は非常に大きい。かつて一般的だったフロッピーディスク1枚に、文字なら400字詰め原稿用紙1800枚分が収まるが、動画データを通常の方法で入れようとすると、解像度にもよるが3、4秒程度しか収まらないという。
「動画には動きがあり、色があり、音がある。それらがない文字は圧倒的に不利といえるが、小説を読むと、読み手の脳内にはその世界が広がる。それを可能にするのが想像力」と眞鍋さん。文字は情報量の少なさ故、人間に想像力を働かせる、と述べた。
記者としての自らの仕事を反省させられる。文字が想像力を起動するとして、安易な使い方ではその可能性を損なうだろう。例えば「平和」という2文字に、単に「戦争がない状態」の意味を込めるのか。
「パレスチナに平和を」と書いてみて、パレスチナ人がイスラエルの占領政策を耐え忍ぶことではないという思いは募る。では、どんな状態を想像させたくて「平和」の2文字を使うのか。読み手と想像力を共有し、そのイメージをつくり出すために、この2文字がある気もする。
眞鍋さんは「いつも妻に『大げさなことを言いなさんな』と言われる」と断りながら、「文字こそが世界を平和にできる」とも述べた。想像力をかき立てる、データ量14文字の一文だ。
(2024年5月30日朝刊掲載)